産経新聞朝刊 2000年10月15日
主張 米朝関係改善 日本はじっくりと対応を
米国と北朝鮮の間でこのほど発表された共同コミュニケ(声明)は、両国が朝鮮戦争(一九五〇−五三年)以来の敵対関係を清算し、根本的な関係改善をめざすことを「宣言」した。対米関係改善で朝鮮半島の緊張緩和と南北和解がさらに進み、この地域での北朝鮮の「脅威」が解消に向かうことを期待したい。
北朝鮮の今回の対米平和攻勢は、体制維持のため軍事的に米国の「脅威」を排除するといった直接的な効果とともに、南北和解に次ぐ対米和解をテコに日本をあせらせ、関係改善に引き出す狙いもあるようだ。
北朝鮮の思惑通り、日本では早くも関係改善を急ぐべきだという「バスに乗り遅れるな」論が出ているが、今回の米朝会談でも明らかなように、急いでいるのは北朝鮮である。日本としては今月中に開かれる第三回正常化交渉での北朝鮮の出方などを見きわめながら、じっくり対応すればいい。
米朝はこの間、核問題に関する一九九四年のジュネーブ合意書で連絡事務所開設を約束し合うなど、対話を重ねてきた。従って「宣言」はいまさらの感じがしないでもないが、国交正常化を視野に入れた米朝関係の改善は、北朝鮮を国際社会に引き入れ「無害化」させる意味で歓迎したい。
金正日総書記は米朝関係改善については先に「自分が指示すれば明日にも国交樹立する。米国がかぶせているテロ国家の帽子さえ脱がせてくれればすぐやれる」(韓国マスコミ社長団との会見)と語っている。関係正常化には「テロ支援国家指定解除」が最大の懸案というわけだ。
しかし、北朝鮮が米国や日本をはじめ国際社会で「安心できる国」として評価されるためには、この問題で具体的な態度を示さなければならない。それが「よど号」乗っ取り事件犯人の日本送還であり、日本人拉致(らち)問題の解決であり、さらには大韓航空機爆破事件や全斗煥大統領暗殺未遂(アウンサン廟爆弾テロ)事件など韓国に対する公式謝罪である。
国際社会との和解、協力は「宣言」だけで実現するものではない。実際の行動があってはじめて信用される。テロ、核、ミサイル、軍事的緊張緩和など、すべてそうだ。
同時に北朝鮮が国際社会の一員として、今後、経済などで恩恵を受けることになれば、人権や民主主義にかかわる過酷な国内体制も当然、国際社会の関心の対象になってくる。その意味では日本人拉致疑惑への北朝鮮の対応は、「変化」への大きな試金石である。北朝鮮の出方を見守りたい。
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