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産経新聞朝刊 1999年12月3日
視点 村山訪朝団と朝鮮労働党 「拉致」事実上棚上げ
 
 村山富市元首相を団長とする超党派訪朝団は、北朝鮮側との会談で、政府間交渉の再開という一点を最優先した結果、これまで日本政府が交渉再開の前提としていたさまざまな問題を、事実上棚上げすることになった。なかでも日本の世論が最も注目していた「拉致(らち)事件解明」について、北朝鮮側は「行方不明者」という形での再調査を約束したが、拉致事件そのものを認めない立場は変わっていない。
 両国赤十字間で協議する「人道問題」として、「行方不明者」「食糧援助」「日本人配偶者帰国問題」の三点で合意したが、民間団体である赤十字が交渉の窓口となることで、日本政府としての発言の機会が少なくなるばかりか、北朝鮮にとって都合のよいコメ支援などの「人道援助」ばかりが強調され、日本人拉致問題が、ないがしろにされる可能性さえある。
 日本政府としては、村山団長の報告を受けたうえで、交渉再開に向けた準備に入るが、仮に交渉が再開されたとしても、拉致問題などの懸案を政府間交渉で全く取り上げなければ、今回の訪朝団だけでなく、政府間交渉そのものが何の意味も持たなくなる可能性は高い。(野口裕之)
 
 
 
 
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