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産経新聞朝刊 1999年9月19日
主張 米の制裁緩和 北への甘い幻想は禁物だ
 
 米政府は朝鮮戦争以来続いていた北朝鮮に対する経済制裁を、大幅に緩和することを発表した。先の米朝高官協議で、北朝鮮が準備中のミサイル実験の中止を宣言したことを受けての措置である。米朝関係は新たな段階に入ったことは間違いない。
 しかし、北朝鮮は依然としてミサイル発射を凍結したり、断念したわけではない。今回の米政府の決定がアジアの緊張緩和に寄与するという点は評価に値するが、北朝鮮への油断は禁物だ。日本が「バスに乗り遅れるな」式ににわかに制裁解除に踏み切るような姿勢は、厳に慎みたい。
 今回解除されるのは、(1)戦略物資を除くほとんどの物品の輸出入(2)個人および商業目的の送金(3)商業用航空機・船舶の運航−などで、米国内にある北朝鮮資産の凍結解除やテロ国家指定解除などは見送られた。
 政策見直しの報告をまとめたペリー政策調整官(前国防長官)は記者会見で「暗雲は去った」と米朝関係の改善実現に自信をのぞかせた。これらの動きに対し、米議会は解除は時期尚早と反発を強めている。
 一方、小渕恵三首相は米国の制裁緩和決定を支持する意向を表明するとともに、ミサイル発射凍結が確実になれば、日本も北朝鮮に対する措置を解除する可能性を示した。
 しかし、北朝鮮外交はしたたかである。一連の流れを振り返ると、北朝鮮は核開発疑惑を外交カードに使い、朝鮮半島エネルギー開発機構(KEDO)の発足を引き出した。昨年夏のテポドン発射以後は、再発射の可能性をちらつかせて食糧支援などを獲得しようとした。
 忘れてはならないのは、日本は米国や韓国とは違った未解決の問題を抱えていることである。まず日本人の拉致(らち)疑惑。北朝鮮はいまだに問題の存在自体を否定している。さらに、昨年のテポドン発射に対して北朝鮮は「人工衛星の打ち上げ」との立場を崩していない。そして、ことし三月の工作船事件。日本にとっていささかも「暗雲」は去っていないのである。
 日本に対する北朝鮮の姿勢に変化が見られない限り、北朝鮮への制裁解除は慎重であるべきだ。少なくともミサイル凍結が確実であるところまで見極めるために、日米韓で協調体制をとる必要がある。むしろ、ここは北朝鮮が公約をホゴにして、ミサイルを再発射した場合の有効な制裁措置、新たな脅威への防衛体制の見直しなどに心血を注ぐことが望まれる。
 いまだ冷戦志向に立つ北朝鮮への甘い幻想はもつべきでない。
 
 
 
 
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