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産経新聞朝刊 1999年6月7日
主張 村山訪朝団 術中にはまる愚は避けよ
 
 村山富市元首相を団長とする超党派訪朝団が二十日ごろ、北朝鮮を訪問する方向という。この試みが「対話と抑止」を軸とする対朝外交方針に多少でも資するのであれば、無意味ではあるまい。しかし、拉致(らち)疑惑、「テポドン」発射、工作船による領海侵犯などに対し、北朝鮮は依然として誠意ある態度を示そうとはしていない。訪朝団は毅然として日本の立場を主張すべきであり、相手の姿勢に変化がないのであれば席を立つぐらいの構えが望まれる。
 訪朝団は、自民、民主、公明、社民各党の議員で構成される予定だ。村山氏は当初、個人の資格での訪朝を計画したというが、元首相であり、朝鮮労働党と友党関係にあった旧社会党の委員長をつとめた経緯から、“一議員”の立場を超えた意味合いをもつことを認識すべきであろう。
 日本側は昨年八月の「テポドン」発射により、国交正常化交渉の再開や食糧支援を見合わせてきた。さらに先の工作船事件で関係は一段と悪化したが、最近になって外務省幹部が非公式に北側と接触するなど、局面打開に向けての模索が続いていた。
 一方で、核開発疑惑をめぐる平成六年の米朝合意を踏まえ、北朝鮮に軽水炉を供与する朝鮮半島エネルギー開発機構(KEDO)が発足、日本は総経費四十六億ドルのうち十億ドル(千百六十五億円)を負担することになり、この五月、資金供与協定に署名した。
 KEDOは北朝鮮の核開発阻止のためにつくられた国際的枠組みであり、日本の安全保障、北東アジアの安定と平和、米韓との連携の重要さなどを総合的に考えれば、KEDOへの協力維持という政府方針もやむを得まい。ただ、国民感情としてはすんなりと理解しにくいものが残るのは確かで、政府・外務省にはより積極的な説明責任が求められよう。
 今回の訪朝団はこうした流れの中で設定されたものだ。クリントン米大統領の特使として北朝鮮を訪問したペリー政策調整官は、近く日米韓の三国協調を踏まえた新政策「ペリー報告書」を明らかにする。「包括的かつ統合されたアプローチ」の詳細な内容が示され、これをもとに米朝間の新たな動きが出てくる可能性もある。
 日本としては米韓との連携が重要ではあっても、拉致問題などの棚上げは許容できない。相手は“外交巧者”である。訪朝団は金正日総書記にあてた小渕恵三首相の「自民党総裁親書」を携行するというが、北側に誤ったメッセージを与え、利用される“あやうさ”をぬぐい切れないのである。
 
 
 
 
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