日本財団 図書館


産経新聞朝刊 1998年9月1日
主張 北朝鮮ミサイル 由々しい事態に抗議する
 
 北朝鮮が二段式弾道ミサイルの発射実験を行い、一部は日本海に落下、弾頭部は東北地方を越えて三陸沖の太平洋に着弾した。これによって、北朝鮮は日本全土をミサイルの射程圏内におさめたことになる。北朝鮮のミサイル開発は予想を超える水準に達していたわけで、日本の安全保障上、重大な懸念を生じさせる由々しい事態といわなくてはならない。
 北朝鮮のミサイル実験は平成五年五月、能登半島沖を目標に「ノドン」を発射してから二回目である。核開発疑惑をテコとして軽水炉支援や重油供給を引き出したことに続き、今度は「ミサイル・カード」を行使しようというのだろうが、“恫喝外交”を許すわけにはいかない。日本としては米国などと協調して、北朝鮮の“非常識”に抗議し、封じ込めていくべきだ。
 ミサイル発射実験は事前に予測されており、日本も中止を求めていた。だが、北朝鮮はこれを無視して東部沿岸部からミサイルを発射し、一部は能登半島の北西五百キロの公海に落下、さらに弾頭部は日本の上空を飛び、三陸沖東方数百キロまで達した。
 「ノドン」は最大射程千−千三百キロと推定されていたが、今回のミサイルは、射程千五百−二千キロの「テポドン1号」である可能性が高いとされ、これは日本全土が射程圏内に入る。
 北朝鮮は今年六月、ミサイルの開発・輸出を公然と認め、自制を求めた米国に対し、「外貨獲得のためであり、輸出を阻止したければ、生じる損失を補償せよ」と主張した。さらに、潜水艇による韓国への潜入事件、日本人拉致(らち)疑惑の全面否定、日本人妻里帰りの一方的打ち切りなど、対外的な強硬姿勢が目立っている。
 最高指導者の金正日総書記がまもなく国家主席に就任する見通しであることから、国威発揚をねらったのか。厳しい飢餓が伝えられるなか、ミサイルの威力をちらつかせ、新たな支援を求めようという思惑もあるに違いない。北朝鮮との“付き合い方”については、「北風と太陽」のたとえがよく使われるが、国際社会が必要以上に譲歩を重ねていけば、さらに「カード」を繰り出してくる国であることを忘れてはなるまい。
 北朝鮮のミサイル発射実験は、日本の防衛体制や国民の国防意識がいかに無力、無防備であるか、改めて浮き彫りにした。新たな日米防衛協力の指針(ガイドライン)に基づいて米軍への支援体制を整備しようとする周辺事態法など関連法案も、この臨時国会で成立する見通しは立っていない。“平和ぼけ”からの脱却が急務である。
 
 
 
 
※ この記事は、著者と発行元の許諾を得て転載したものです。著者と発行元に無断で複製、翻案、送信、頒布するなど、著者と発行元の著作権を侵害する一切の行為は禁止されています。








日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION