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読売新聞朝刊 2003年3月18日
社説 平壌宣言半年 核の脅威をもてあそぶ「異常な国」
 
 “ならず者国家”的な体質が一段と鮮明になった半年だったと言える。
 小泉首相と金正日総書記が、平壌で会談したのが、昨年九月十七日。両首脳は、国交正常化交渉再開で合意し、金総書記は日本人拉致や工作船活動を認め、五人の拉致被害者の帰国も実現した。
 しかし、正常化交渉は昨年十月に一度開かれただけである。安全保障協議開催のめどもついていない。北朝鮮に残された、拉致被害者の家族の帰国問題にも進展は見えないままだ。
 その一方で、米朝枠組み合意に反し、北朝鮮が核開発を続けていることが明らかになった。日朝両首脳が署名した「平壌宣言」には、双方が朝鮮半島の核問題に関するすべての国際的な合意を順守することが明記されている。
 核開発をひそかに進めていながら、小泉首相の面前で、平然と核開発の凍結を誓約したのが、金総書記である。北朝鮮はその後、核拡散防止条約(NPT)からの脱退を宣言し、原子炉の再稼働にも踏み切った。
 国際的な常識が通用しない国であることが、浮き彫りにされた。
 北朝鮮の一連の行動で、平壌宣言は事実上、空文化しつつある。北朝鮮への対応を考えるにあたっては、こうした点を十分に踏まえなければならない。
 北朝鮮の核開発は、日本の安全にとって、重大な脅威である。既に北朝鮮は、日本全土を射程に入れた弾道ミサイル・ノドンも配備済みだ。
 ミサイル防衛システムの導入など、防御体制の整備を急ぐのは当然である。
 だが、専守防衛を防衛政策の基本に据え、ミサイルが撃ち込まれた際、自衛隊の活動の根拠となる法整備さえ十分ではないのが、今の日本である。独力で対処するのは、極めて難しいのが現実だ。
 米国の軍事的なプレゼンスが、北朝鮮への最大の抑止力となっていることを忘れてはならない。安保条約を柱とした、米国との同盟関係の堅持と強化が、日本の安全保障に直結している。
 今後の対北朝鮮外交の展開にあたっても、日米同盟関係を念頭に置きながら、対処していく姿勢が求められている。北朝鮮に対し融和姿勢をとる盧武鉉政権の誕生以降、米韓同盟関係にきしみが生じているだけに、なおさらである。
 核再処理着手や、弾道ミサイルの発射など、今後の北朝鮮の出方には、不透明な部分が多い。そうであればこそ、相手の動向を見極めることが必要だ。日本に国交正常化を急ぐ理由はない。焦らないことが国益につながる道である。
 
 
 
 
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