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読売新聞朝刊 2003年4月12日
社説 北朝鮮核開発 「多国間協議」で封じられるか
 
 イラクに続くもう一つの危機がこれから正念場を迎える。
 北朝鮮の核問題をめぐり、国連安全保障理事会が非公式協議を行った。当初、米英仏が検討したという、北朝鮮を非難する議長声明は、発表されなかった。
 多国間協議への参加に北朝鮮が応じる兆しが出ていることに配慮した、とされる。北朝鮮を追いつめず、多国間協議の実現を図る狙いという。
 非公式協議では、各国が懸念を表明しながらも、今後も事態の推移を見守ることにした。北朝鮮が、核拡散防止体制を揺るがす危険な行動をとり続けてきている以上、目を離すわけにはいかない。
 北朝鮮は国際原子力機関(IAEA)の査察なしに原子炉を再稼働させた。使用済み核燃料の再処理に踏み切れば、核兵器の保有は時間の問題となる。国際社会はそれを許してはならない。
 北朝鮮が再処理に手を掛ければ、対抗手段をとらざるを得ない。再処理をしないことが、核問題を平和的に解決していく大前提である。
 北朝鮮の挑発的姿勢は変わらない。一か月前、日本海上空では米軍偵察機を戦闘機で追尾した。イラク戦争の間隙(かんげき)をつき、米国を揺さぶる恐れもあった。
 フセイン政権の崩壊によって戦争が最終局面に入り、米国に、北朝鮮問題に取り組む余裕が生まれている。
 米国は、軍事的対応を含むあらゆる選択肢を排除しない方針を堅持しつつ、国際的枠組みの中で外交的解決を優先する姿勢を見せている。
 北朝鮮は、米朝直接対話による解決しかないと主張するが、形式よりも、解決する意思があるかどうかが問題だ。
 注目したいのは、中国の役割だ。多国間協議という米国案を三月初めに北朝鮮に伝えたのは、中国といわれる。二月の原子炉再稼働の直後、重油供給のパイプラインを約三日間止めた、という報道もあった。核開発を進める北朝鮮への無言の圧力を加えた、との見方もある。
 先行きは楽観できない。北朝鮮外務省スポークスマンは、イラク戦争から「強大な軍事的抑止力」が国防に不可欠という教訓を得た、と強調した。核保有への決意表明のようにも読みとれる。
 朝鮮中央通信の論評を通じて、「日本もわが方の攻撃圏内にあるということを明確に意識し、軽挙妄動するな」と露骨な脅しをかけてもいる。そういう異常な国だということを忘れてはならない。
 朝鮮半島の非核化で、日米や中露など周辺各国の認識は一致している。とりわけ日本にとっては、北朝鮮の核開発阻止は安全保障上、死活的な課題である。
 
 
 
 
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