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読売新聞朝刊 2003年2月26日
北朝鮮の対艦ミサイル 「真の脅威」に冷静な判断と対応を(解説)
 
 ◆日本への直接影響なし
 北朝鮮が二十四日、日本海に地対艦ミサイルを発射した。過剰な反応は北朝鮮を利するだけで、冷静な対応が求められる。(解説部・宇恵一郎)     
 北朝鮮の核開発問題が国連安全保障理事会に委ねられる中、「北朝鮮のミサイル」と聞くだけでおびえる心理が国民の中に広がっている。何が脅威で何に備えるべきなのか、冷静な判断と毅然(きぜん)とした対応が必要だ。
 韓国国防省の発表によると、北朝鮮は二十四日、北東部の海岸から、日本海に向けて地対艦ミサイルを発射した。数十キロ沖合に着弾したという射程から見て、北朝鮮が一九七〇年代から沿岸防衛用に中国から導入し、実戦配備している射程百キロ未満の短距離地対艦ミサイルの「シルクワーム」とみられる。
 北朝鮮が開発を進めるミサイルをめぐっては、すでに射程千三百キロと日本列島をほぼ射程に収める「ノドン」ミサイル、さらに九八年八月の試験発射で日本本土を越えて三沢沖の太平洋に達した「テポドン」ミサイルが確認されている。これらの弾道ミサイルは、日本の安全保障にとり現実的脅威だ。しかし、今回発射されたのが「シルクワーム」だとすれば、到底日本本土・領海に届かず、直接的脅威ではない。
 わが国と北朝鮮は、昨年九月十七日の日朝平壌宣言で、当面、「北朝鮮による弾道ミサイルの発射実験の凍結」を確認しているが、政府は、二十五日朝、いち早く「平壌宣言に違反するものではない」と確認している。韓国国防省も、「今回のミサイル発射は通常の訓練の一環」であるとの見解を示している。
 とはいえ、この時期に北朝鮮がミサイル発射を行った背景にある、緊張する朝鮮半島情勢を把握しておくことは必要だ。
 一つは、イラク問題で武力行使をめぐって国連安保理の論議が大詰めを迎えているタイミングだ。「イラクの次は北朝鮮」との国際政治の流れが生まれつつある中で、北朝鮮は防衛強化の姿勢を打ち出した。米国周辺から「経済制裁」「海上封鎖」という強硬策の準備も伝えられる中での対応だ。
 二つ目には、米韓が来月四日から、朝鮮半島有事を想定した定例の合同野外機動演習「フォール・イーグル」を実施するというタイミングだ。対抗措置として北朝鮮は大規模な冬季演習に入っており、その訓練の一環としてミサイルは発射された。
 翌日の二十五日には韓国で盧武鉉大統領の就任式が行われ、小泉首相、パウエル米国務長官がソウルに集い、盧新大統領を交えて、北朝鮮の核問題への対応について、日米韓の協調体制を確認する連続会談が予定されていた。日米韓の連携を嫌う北朝鮮が、対北朝鮮融和策を打ち出し米国と微妙な温度差を見せている盧政権への揺さぶりをかけたとの見方も可能だろう。
 しかし、北朝鮮の意図がどうあれ、現実の脅威を正しく認識し、国際社会と連携してどう備えるかが大事だ。直接の脅威でもない「シルクワーム」発射への過剰反応は、北朝鮮にあえて「恐怖のカード」を一枚与えることでしかないが、北朝鮮の核開発をはじめとする大量破壊兵器開発は、現実の脅威である。
 日本として、注視し、未然に対応を強化すべきなのは、〈1〉日本を射程に収める弾道ミサイルの試験発射の再開〈2〉使用済み核燃料棒の再処理着手――なのだ。冷静であると同時に、北朝鮮の動きから目を離してはならないのは、言うまでもない。
 
 
 
 
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