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読売新聞朝刊 2002年3月12日
よみうり寸評 もどかしさ募る拉致事件
 
 一九八三年(昭和五十八年)といえば、NHKが、朝の連続テレビ小説「おしん」の放映を始めた年だ◆その年に、英国留学中だった有本恵子さんは北朝鮮に連れ去られたらしい。それからもう十九年にもなる。当時、彼女は二十三歳の神戸外語大生だった。おしんは辛抱と忍耐を重ねて成功したが、有本さんはどうしているか◆辛抱と忍耐に不安が重なっていることと思う。日航機「よど号」を乗っ取ったメンバーの元妻が警視庁公安部に「拉致(らち)に関与した」と供述してわかった。一連の拉致事件では初めての特捜本部が捜査に乗り出した◆というが、先は見えない。「やっと一歩進んだが、何も変わらないかも」と神戸市に住む両親。この辛抱、忍耐、不安、もどかしい、もどかしい思いは察するに余りある◆何しろ北朝鮮側は「行方不明者」の調査をすると表明したものの、「見つからなかった」と言い、昨年十二月には朝鮮赤十字会がその調査さえ中止を発表している状態だ◆「踏んでも踏んでも踏めないもの」は影。朝鮮半島のなぞなぞのようにもどかしい。
 
 
 
 
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