日本財団 図書館


読売新聞朝刊 2002年6月30日
社説 南北艦艇交戦 またも緊張を高めた半島情勢
 
 朝鮮半島の緊張を高めるような事件がまたも発生した。日本としても無関心ではいられない事態である。
 黄海で、北朝鮮の警備艇と韓国艦艇が砲銃撃戦となり、韓国側に二十人以上の死傷者を出した。冷え込んだ南北関係をさらに後退させる影響を与えるのは必至である。
 事態を重視した韓国政府は国家安全保障会議を開いて対応を協議し、韓国軍は警戒態勢を強化した。
 現場は、朝鮮戦争の休戦後、韓国と国連軍が引いた「北方限界線」と呼ばれる海上の軍事境界線付近である。この海上境界線については、南北間の見解が食い違い、小競り合いが続いてきた。
 三年前にも同様の銃撃戦があったが、いずれも偶発的なものとは考えにくい。先に発砲したのは北朝鮮側だろうが、発砲は、軍事行動の停止をうたう朝鮮休戦協定に違反する行為である。
 ただ、休戦協定には、海上の境界線に関する明文規定はない。北朝鮮は長年、北方限界線の存在を黙認していたという経緯はあるが、前回の銃撃戦後、一方的に、北方限界線の南側に独自の海上境界線を設定している。これが、繰り返されてきた衝突の背景になっている。
 それでも、今回の事件は、二年前の歴史的な訪朝によって南北和解を目指した金大中大統領の政権末期の時期と重なって、内外への影響は大きいだろう。大統領の「太陽政策」の有効性が改めて問われ、日米韓の対北朝鮮政策にも波紋を広げることになるからだ。
 大統領は、首脳会談後の和解の停滞を打開するため、四月に特使を平壌に派遣した。これによって、南北対話や米朝協議再開の動きも生まれてきた。
 事件は、そんな流れを逆行させることになる。サッカーW杯の熱気にわきたつタイミングからすれば、韓国民の心情に冷水を浴びせたことにもなろう。
 北朝鮮に、緊張を作り出して政治カードにしようという意図があるとすれば、南北和解への道は一層遠のくことになるのは言うまでもない。
 軍事衝突の再発を防止するためには、南北が早急に話し合いに着手する必要がある。海上の境界線の不一致を解消する努力とともに、緊急時の対話チャンネルとなる軍事ホットラインの開設など、これまで提案されてきた信頼醸成措置を、実行に移さなければならない。
 不審船問題を抱える日本政府にとっても、事件は重大である。北朝鮮が日本や米国との関係改善を志向するなら、国際社会の不信感を深めるような行動は慎むべきである。
 
 
 
 
※ この記事は、著者と発行元の許諾を得て転載したものです。著者と発行元に無断で複製、翻案、送信、頒布するなど、著者と発行元の著作権を侵害する一切の行為は禁止されています。

「読売新聞社の著作物について」








日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION