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読売新聞朝刊 2000年9月24日
社説 日韓首脳会談 新時代の協力関係をどう築くか 
 
 森首相と来日中の金大中韓国大統領との二十三日の首脳会談は、日韓両国が未来志向の協力関係へと着実に歩んでいることを印象づけたと言えるだろう。
 一衣帯水の隣国である日韓両国は長い交流の歴史を持つ。東アジアの平和と安定やアジア経済の発展に果たすべき両国の役割を考えれば、今ほど緊密な協力関係が求められている時はない。
 歴史的な首脳会談をはじめ南北対話の進展や、北朝鮮の積極外交の展開によって朝鮮半島情勢は大きく変化している。
 南北、米朝、日朝の三つの対話は、議題の重点の置き方に微妙な違いがある。だが日米韓三国の協調のもとで、全体として半島の緊張緩和につながるものでなければならない。南北対話と日朝交渉が「互いに肯定的な効果を持つ」よう緊密な協議を行うことで両首脳が合意したのは当然だ。
 経済面では、日韓投資協定の年内締結の目標に向けた協議の加速や、日韓自由貿易協定をめぐる論議を深めることで合意した。情報技術(IT)産業分野の事業の共同開発や推進でも一致した。
 日韓の経済協力の進展は、アジア経済の発展に資する。韓国経済の強化は半島情勢の安定にもつながるだろう。
 金大統領は、会談で永住外国人への地方選挙権付与の年内実現を求めた。
 だが、外国人への選挙権付与は、国の基本にかかわる問題だ。憲法は、日本国籍を持つ国民にのみ、参政権を認めている。
 朝鮮半島出身者やその子孫の場合、特別の歴史的背景があるとしても、それは国の基本にかかわる問題とは性格を異にする。この問題は、あくまで憲法に基づいて考えるべきものだ。
 この点について、金大統領の理解を求めたい。もとより、日韓双方とも、この問題で日韓関係が損なわれることがないよう冷静に対処する必要がある。
 金大統領は九八年の訪日の際、過去の歴史認識の問題に終止符を打つことを表明した。これを機に、歴史認識をめぐる日韓双方のわだかまりが和らげられ、日韓の友好協力関係が大きく進展した。
 その点で疑問なのは、現在、文部省で検定中の特定の中学校公民教科書の記述に関する日本側の一部マスコミ報道だ。
 ことさらに歴史認識問題を取り上げ、それが韓国マスコミに取り上げられて対日批判を招く構図は、過去にも度々あった。こうしたことがいつまでも繰り返されていいはずがない。
 もちろん歴史を直視することは必要だ。だが、過去の歴史について、それぞれの国にそれぞれの認識がある。大事なのは、歴史認識の相違を認めつつ、相互理解を深めることだ。いたずらに反感をあおることは真の未来志向の関係の構築を妨げる。
 ワールドカップが日韓共催で行われる二〇〇二年は、日韓両国の「国民交流の年」でもある。各分野での協力、交流を発展させ、二十一世紀の日韓関係を揺るぎないものにする一層の努力を重ねたい。
 
 
 
 
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