読売新聞朝刊 2000年6月4日
社説 対北朝鮮で緊密な政策協調を
北朝鮮の金正日朝鮮労働党総書記が中国を非公式訪問し、江沢民国家主席をはじめとする中国最高指導部と会談した。
金日成主席が九四年に死亡した後、北朝鮮の最高指導者となった金総書記にとって、これが初の外国訪問である。
中朝関係は、中韓国交正常化で冷え込んでいたが、突然の金総書記の訪中は、南北首脳会談を目前に控えて、伝統的な中朝友好関係の誇示を通じ、北朝鮮の足場を固める意味合いがあるのだろう。
東西冷戦終結後、朝鮮半島をめぐる国際的な動きは、核開発疑惑をきっかけに始まった米朝協議を軸に展開してきた。
北朝鮮は今年に入り、イタリア、オーストラリアとの国交を正常化させ、日本との国交正常化交渉を再開した。アジア太平洋地域の安全保障をめぐる多国間対話の場である東南アジア諸国連合・地域フォーラム(ARF)に加盟申請し、承認されるなど、多角的な外交に乗り出した。
こうした流れに立って、今月十二日から平壌で、金総書記と金大中・韓国大統領が史上初の南北首脳会談を行う。朝鮮半島情勢に大きな転機をもたらすことが期待されている。
重要なことは、こうした動きを、朝鮮半島の安定と北東アジア地域の緊張緩和に確実につなげることだ。
中朝首脳会談について、韓国政府は、南北首脳会談にプラスに作用し、朝鮮半島の平和と安定の維持に役立つとみて、歓迎している。米政府と日本政府も同様に、米朝関係や日朝交渉に前向きの影響が出ると評価している。
中朝首脳会談で中国の江主席は、「朝鮮半島の平和と安定に力を尽くすことは、中国の対朝鮮半島政策の基本原則だ。南北関係の改善を希望し、南北首脳会談の開催を歓迎し支持する」と述べた。言葉を裏づける中国の行動を期待したい。
北朝鮮は、経済立て直しよりも軍事を最優先する戦時体制の強調によって国内の引き締めを図ってきた。テポドン・ミサイル発射で国威の発揚を狙ったのかもしれないが、大量破壊兵器の拡散につながる北朝鮮の挑発的な行動には、国際社会での懸念が一層強まっている。
北朝鮮の外交は、徹底した秘密主義である。北朝鮮の意図を把握するための外交努力が、地域の安定のために、どうしても必要だ。この点で中国が果たす役割は、以前にも増して大きくなったと言える。
北朝鮮の核・ミサイル脅威の除去に向けて、日米韓は、ペリー前米国防長官が報告で示した道筋に沿って、協調しながら対処するプロセスを進めている。
日米韓は、日朝交渉、米朝協議、南北首脳会談を頂点とする南北対話という三つの枠組みで北朝鮮と向き合っている。整合性を保ちながら、緊密な協調の下で対北朝鮮政策を進めて行くことが重要だ。
日本としては、南北首脳会談後に東京で開かれる日朝国交正常化交渉で、諸問題の解決に向けての日本の見解と立場を、きちんと北朝鮮側に伝えることが肝心だ。
※ この記事は、著者と発行元の許諾を得て転載したものです。著者と発行元に無断で複製、翻案、送信、頒布するなど、著者と発行元の著作権を侵害する一切の行為は禁止されています。
「読売新聞社の著作物について」