読売新聞朝刊 2000年3月15日
再開に向かう日朝交渉 「南北」への配慮重要 韓国通じた支援検討を(解説)
北京での赤十字会談を経て、日朝両国は国交正常化交渉の本会談再開に向けて動いている。日本は、南北関係への配慮を忘れてはならない。
(ソウル支局 森千春)
日本政府が七日、対北朝鮮食糧支援と正常化交渉の再開を発表した際、韓国政府は即座に、「朝鮮半島の平和と安定に寄与する」と歓迎のコメントを出した。
金大中大統領の対北朝鮮「太陽政策」は、北朝鮮との交流・協力を拡大することによって北朝鮮を開放に導くという考えだ。金大統領自ら九日、訪問先のベルリンでの演説で、これまで行ってきた民間経済交流への側面支援に加えて、韓国政府が、農業分野や交通・電力など社会資本分野で支援に乗り出す用意があると表明した。
その直後の日朝赤十字会談で、北朝鮮が拉致(らち)疑惑に関して、「行方不明者」調査の開始を伝達したことについて、韓国外交通商省のある幹部は、「拉致問題が簡単に解決するとは思わないが、日朝関係が前進するようになったわけで、長い目で見れば北朝鮮の開放につながる」と評価する。
ただ、韓国としては手放しの歓迎ではない。昨年、米朝関係が北朝鮮高官のワシントン訪問を協議するまで深まり、十二月に村山元首相を代表とする議員団が訪朝すると、金大統領は、北朝鮮と関係改善する国に向けて、「北朝鮮に対して、南北関係を改善するように働きかけてほしい」との要望を、繰り返し表明するようになった。
「米朝、日朝の関係改善が、南北政府間の関係改善に先行しても構わない」という、金大統領の基本的な立場は揺らいでいない。だからこそ、韓国総選挙前という微妙な時期に、日本はコメ支援を決定できた。金泳三前政権が、日本が韓国の「頭越し」に北朝鮮に接近するのではないかと警戒していた態度とは、対照的だ。とはいえ、北朝鮮が、日・米・欧州諸国との関係改善ばかりを誇示して、韓国当局を無視する態度をとることへの警戒感は、韓国内で強まっている。
◆太陽政策は一貫
金大統領は太陽政策を一貫して維持してきたが、国内の保守層からは、「北朝鮮に対して一方的に利益を与えるばかりだ」との批判を浴びている。四月の総選挙に向けた論戦で、ハンナラ党は、現政権の対北朝鮮支援策が南北対話という成果をあげていない点をついている。昨年十二月の国交正常化交渉予備会談で日本側は、北朝鮮側に「南北問題も大事だ」との立場を伝えた。韓国政府はこれに感謝の意を表明しているが、会談における発言だけでは、北朝鮮に無視されて言いっぱなしに終わりかねない。
今後、本会談が始まり、日朝関係が目に見えて進展すると、韓国側ではますます、「日本政府は『朝鮮半島の真の平和のためには、南北対話なしでは困る』という問題意識を、自発的にはっきりしてほしい」(崔相龍駐日大使)との思いを強くするだろう。
小倉和夫前駐韓大使(現駐仏大使)は、すでに今年一月の離任直前に、日朝関係進展と南北関係を連結させるために、「日本は韓国を通じての対北朝鮮支援を考えるべきだ」との考えを示した。北朝鮮に日韓離反のすきを与えないためにも、具体案を検討する価値がある。
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