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読売新聞朝刊 1999年12月15日
社説 筋を通した日朝交渉が肝要だ 
 
 政府は十四日、北朝鮮のテポドン・ミサイル発射に対する制裁措置のうち、国交正常化交渉再開と食糧支援の凍結解除を発表した。朝鮮半島エネルギー開発機構(KEDO)への資金拠出や直行チャーター便の運航再開と合わせ、すべての制裁措置が解除されたことになる。
 だが、テポドン発射の“自制”は、日本には何の説明もない。日本人拉致(らち)問題は事実すら認めない。今年に入って、工作船の領海侵犯事件まで起きた。
 北朝鮮の姿勢に顕著な変化がないのに、なぜ制裁解除なのか。国民は必ずしも納得しているわけではないだろう。
 とはいえ、米・ペリー報告の「対話と抑止」に基づいて、協調して北朝鮮との対話を進めるという日米韓三国の合意がある。北朝鮮の暴発を防ぐという安全保障の観点や、拉致問題の打開のためにも、日朝両国が意思疎通を図る場は必要ではある。
 年内に国交正常化交渉再開のための予備交渉と日朝赤十字協議が始まる。今後の交渉に当たっては、国益を守るという基本に立って、筋を通すことが肝要だ。
 予備交渉では本交渉の議題の整理が焦点になる。九一年に始まり、九二年に中断するまでの八回の国交正常化交渉では、管轄権など「基本問題」、財産請求権など「経済問題」「国際問題」「その他、双方が関心を持つ問題」の四つが議題とされた。
 「国際問題」は、当時は核開発疑惑が焦点だったが、その後、北朝鮮のミサイル開発が進んだ。テポドンは米朝協議にゆだねるべきだという声もあるが、日本にとって重大な脅威である以上、日朝間でも論議するべきだ。
 とくに、日本列島を射程に入れるノドン・ミサイル問題を協議の対象から外すわけにはいかない。
 日本政府が北朝鮮工作員の犯行と見ている拉致問題は、先の超党派訪朝団と朝鮮労働党との会談では、人道問題として赤十字間の協議で扱うことになった。
 だが、拉致は日本の国家主権を侵害した事件であり、国家間の問題だ。政府間で取り上げるのは当然だろう。
 食糧支援も、日本側が提起する人道問題の解決に向けた前進なしに、実施するべきではない。規模や方法によっては、人道支援の範囲を逸脱するおそれもある。実施に当たっては、米韓両国との協調も考慮した政治判断も必要だ。赤十字間だけでなく、政府間でも協議するべきだ。
 いずれも北朝鮮の反発が予想されるが、誠意ある姿勢を見せないのであれば、交渉を急ぐ必要はない。安易な妥協をすれば、将来に禍根を残すことにもなる。
 日朝交渉は、朝鮮半島、さらにはアジアの平和と安定に寄与するものでなければならない。北朝鮮がミサイル開発をやめず、拉致を否定し続け、工作船の日本領海侵犯などを再び起こすとすれば、それに逆行するものと言わざるを得ない。
 北朝鮮が、責任と良識を持って国際社会の一員であろうとする意思と行動を示さない限り、交渉の進展は期待できまい。
 
 
 
 
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