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読売新聞朝刊 1999年9月14日
社説 ミサイル問題の決着はまだだ
 
 ベルリンで開かれていた米朝高官協議で北朝鮮が弾道ミサイルの再発射を当面自制することが合意されたという。見返りに、米国は北朝鮮に対して取っている経済制裁の緩和を行うとされる。
 一週間前、私たちは、今回の協議でミサイル再発射問題に決着がつき、朝鮮半島安定化に向けた一歩となることへの期待を表明した。合意は、期待を完全に満たすものとはなっていない。北朝鮮はミサイル発射を最終的に放棄していないからだ。
 多くの課題を先送りした暫定的な妥協であり、米朝共同発表の文言のあいまいさを突いて、北朝鮮が米国の期待に反する行動に出ることもありえよう。
 北朝鮮のミサイル発射自制がどこまで揺るがない約束なのか、まず見極めが必要である。少なくともミサイル発射台の解体が確認されねばならない。
 ただ、頑迷な北朝鮮相手に一気に事態を解決することは無理という認識に立てば、半歩前進でとどまったにせよ、高官協議での米国の努力は多とすべきだろう。
 これからの課題は、今回の合意をいかに北朝鮮のミサイル開発・輸出の恒久的停止にまでつなげ、朝鮮半島の平和と安全確保への確かな一歩にできるかである。これからさらに長丁場で曲折のある北朝鮮との応酬を覚悟する必要がある。
 北朝鮮は先月半ばくらいまで、ミサイル発射への強硬姿勢を変えなかった。これに対し、日米韓は、北朝鮮がミサイル発射を強行すれば、同国に大きな不利益を与えるという厳しい態度に転じた。
 ここへ来て北朝鮮の態度が、表面的にせよ軟化したのは、この日米韓の姿勢が本気であり、日米韓の連携も崩せないことがわかったせいだろう。
 これからも三国間の連携を強固に保ち、北朝鮮の有害な行動には毅然(きぜん)として臨む姿勢を堅持していかねばならない。
 アジア太平洋経済協力会議(APEC)に出席中だった小渕首相、クリントン米大統領、金大中韓国大統領は、今回の米朝合意公表の直前に三者会談を行った。三首脳は記者発表で「北朝鮮が平和確立のための行動を取れば、三か国はそれぞれ関係改善の措置をとる」と述べた。
 北朝鮮の脅威には断固として処し、前向きの行動には利益を与えるという「抑止と対話」政策の後段部分の表明である。北朝鮮は、この誘いに積極的に応じ、国際的孤立脱却への転機とすべきだ。
 日米韓は、北朝鮮の「平和確立のための行動」の一つひとつが見せかけでないことを検証しつつ、相手の行動に見合った関係改善の措置を進めることが肝要だ。
 日本は、昨年八月に北朝鮮がミサイルを発射した際、食糧支援凍結、国交正常化交渉再開凍結、直行航空便停止などの対抗措置を取った。今回の米朝合意がミサイル発射の確固たる凍結でない以上、日本がこれらの対抗措置をただちに全面解除できないことは明白である。
 日本人拉致(らち)疑惑に対する北朝鮮の姿勢も当然、重要な判断材料となる。
 
 
 
 
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