読売新聞朝刊 1999年1月14日
社説 「北の脅威」に安保の基盤強化を
日本をはじめ東アジアの平和と安定にとって現在、最も懸念すべき不透明な要素は北朝鮮の動向だ。
日本全体をすっぽり射程に収める弾道ミサイル「テポドン」の発射実験を近くまた実施するとの情報がある。北朝鮮の潜水艦艇の韓国領海への侵犯も後を絶たない。新たに地下核施設疑惑も浮上している。
食糧・経済危機にあえぐ金正日体制が、崩壊より先に軍事的暴発を起こす可能性を予想する見方さえある。重大な脅威として警戒を怠ってはならない。
日本が今なすべきことは、核やミサイルの開発を中止させる外交努力を続ける一方で、万一に備え日米安保を軸としたスキのない防衛態勢を整えておくことだ。
十三日のコーエン米国防長官と野呂田防衛庁長官ら日本側との会談は、予想通り北朝鮮問題が焦点になった。
米朝協議が十六日に再開され、韓国、北朝鮮と米中による四者会談も近く予定されている。これを前に日米両国が、韓国を含めた三国の緊密な連携と日米安保協力の強化の必要性を改めて確認した意味は、決して小さくない。
とくに日米安保体制は、朝鮮半島をはじめアジア・太平洋地域の有力な安定装置としての役割を期待されている。それにこたえるためにも、まず急がなければならないのは、日米防衛協力ガイドライン関連法の制定だ。会談で野呂田長官が、法案の早期成立への努力を約束したのは当然だ。
この関連法案は、新ガイドラインの効率的な運用、ひいては日米安保体制の抑止力を確保するために不可欠な立法だ。
もとより法案の扱いは内政問題であり、最終的には国会が決めることだ。だが、安保を十分に機能させるためには、同盟国である米国に不信感を抱かせてはならない。今度の通常国会で、可能なかぎり早急に成立を図るのが政治の責任だろう。
注目したいのは、民主党・菅、公明党・神崎両代表が、ここへきて朝鮮半島有事の際の対米軍後方支援について「日本が直接的な脅威を受ける場合は、ある程度のサポートはありうる」などと述べ、容認の姿勢を見せ始めたことだ。
野党内のこうした変化は、法案への理解の広がりとして歓迎したい。
それでも民主党などは、法案修正を求める構えを崩していない。政府案で国会に報告することになっている後方支援の基本計画について、「国会承認」を義務づけるよう改めることなどが、その主張だ。
しかし、「国会承認」を待っていては、迅速な支援活動が難しくなる恐れがある。コーエン長官が法案修正に懸念を示すのは理解できる。ガイドラインの実効性を確保するには、やはり「報告」が妥当だ。
コーエン長官は戦域ミサイル防衛(TMD)システムの実戦配備を、当初の目標年次から前倒しする方針も表明した。北朝鮮のミサイル技術が予想以上に進んでいることへの対抗措置だ。米国との共同技術研究に踏み切ることを決めた日本も、研究推進に向けさらに努力が必要だ。
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