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読売新聞朝刊 1998年10月9日
社説 「過去」を乗り越えた協力関係を 
 
 今度こそ日韓両国に真の未来志向の協力関係が生まれるかもしれない、という期待を強く抱かせる日韓首脳会談だった。
 二十一世紀に向けて、内外の情勢が今日ほど緊密な協力関係の構築を日韓両国に迫っている時はない。
 東西冷戦終了後、急速な世界のボーダーレス化、日米中ロを軸としたアジア新秩序作りへの活発な動きが進んでいる。その一方、アジア経済危機に見舞われる中で、日韓両国とも経済的な苦境にある。朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)による中距離ミサイル開発が北東アジア地域の平和と安全に対する重大な脅威となっている。
 長い歴史を分かち合う、一衣帯水の隣国である双方の協力なしに、両国ともこうした課題に対処することはできない。
 しかし、日韓両国首脳の公式訪問による過去七回の首脳会談は、その都度、「日韓新時代」「未来志向の日韓協力関係」をうたいあげながら、お題目の繰り返しに終わってきた。
 朝鮮半島に対する日本の植民地支配に関する認識をめぐって、日韓双方のわだかまりが解けなかったためだ。
 会談で、小渕首相は韓国国民に対し、「痛切な反省と心からのお詫(わ)び」をし、金大中大統領は、「韓国政府として、再び過去の歴史の問題を出さない」と明言した。
 両首脳の歴史認識をめぐる発言が政府間の公式文書に初めて明記されたのは、過去の歴史の問題に終止符を打つ決意の表れということだろう。今後、政府レベルで過去の歴史をめぐる問題が両国の協力関係の障害になることはないと期待したい。
 とはいえ、国民感情として、過去の歴史が簡単にぬぐいされるものではない。共同宣言が単なるお題目に終わらないよう、両国国民が過去の歴史についての認識を共有するための努力が求められる。
 半島情勢を考えた場合、日韓両国にとって安全保障面での協力の重要性は言うまでもない。
 北朝鮮のミサイル開発をめぐって、日本が朝鮮半島エネルギー開発機構(KEDO)の資金拠出を留保しているのに対し、米韓両国が早期拠出を求めるなど、日米韓三国間に微妙な温度差があるのは事実だ。
 列島を越えてミサイルが発射されたことが日本にとって重大な脅威であるとの認識に、大統領も理解を示すとともに、日米韓三国が共同で半島情勢に対処することを再確認した。北朝鮮にスキを見せないという点でも重要なポイントだ。
 経済面での対韓協力は、アジアの経済危機克服に果たす日本の役割という点でも当然だ。韓国の経済再生は半島情勢の安定にも不可欠だろう。
 共同宣言を具体化するための行動計画には、政府レベルだけでなく、二〇〇二年のワールドカップ共同開催を中心としたスポーツ交流をはじめ、文化、青少年、学術など様々なレベルの交流が盛り込まれた。
 これらを着実かつ早急に実行に移し、日韓協力関係を草の根から揺るぎないものにしなければならない。
 
 
 
 
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