読売新聞朝刊 1998年9月21日
北朝鮮への抑止力に 戦域ミサイル構想で日米本格研究 国民の理解えやすく
【ニューヨーク20日=早乙女大】日米両国政府が二十日の日米安全保障協議委員会(2プラス2)で、戦域ミサイル防衛(TMD)構想について共同技術研究開始で基本合意した背景には、朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)の弾道ミサイル発射により、ぜい弱な日本の防空体制を早急に整備する必要があり、日本国民の理解も得やすくなったという判断がある。
また、TMDに関する日米共同技術研究の積極的な推進をうたうことで、北朝鮮への抑止力になるという計算も働いているようだ。
弾道ミサイルに対する日本の迎撃システムの不備は、九三年五月の北朝鮮のノドン1号発射以来、問われ続けてきた課題だった。
米国がTMD構想を日本側に打診し、日本も九五年以来、基礎研究で合意していたものの、本格的な技術研究に至っていなかった。
一つは、「敵が撃った弾丸を小銃で撃ち落とすより難しい」(防衛庁筋)というように、技術的実現性の困難さがある。実際、米国では、TMDの主力迎撃ミサイルとなるはずの上層用地上発射の戦域高高度地域防衛(THAAD)ミサイル実験が、連続五回も失敗している。
また、開発・配備費用も一―二兆円もの巨額になると言われ、日本の防衛予算が抑制基調の中、負担能力があるのかという問題も抱えていた。
しかし今回の合意は、もともと迎撃システムが不備なうえ、射程千五百キロ以上といわれるテポドン1号にみられるように、長射程ミサイル開発という北朝鮮の急速な技術力進展への懸念がある。同時に、北朝鮮のミサイルは中東諸国との連携も指摘され、それに日米両国がどう対処するかという問題もあった。
一方、共同発表では、朝鮮半島における核拡散を防止するための朝鮮半島エネルギー開発機構(KEDO)の取り組みを支持することを明確にした点も見逃せない。
日本政府は、北朝鮮のミサイル発射への対抗措置として、KEDOへの分担金拠出を留保しているが、今回、KEDOに対する支持を明確に表明したことは、留保措置解除に向けて道筋をつけたものと言えよう。(本文記事1面)
◆日米安全保障協議委員会(2プラス2) 日米両国政府の間で、安全保障に関する日米協力の強化策などを検討する場で、両国政府間協議の最上級に位置づけられる。日本側からは外相、防衛庁長官、米側から国務、国防両長官が出席することから、「2プラス2」の名称で呼ばれる。
◆米国の弾道ミサイル防衛(BMD)構想 海外駐留米軍と同盟国の防衛を目的とする戦域ミサイル防衛(TMD)と、米国本土の防衛を目指す国家ミサイル防衛(NMD)などからなる。
写真=日米2プラス2協議でオルブライト米国務長官と握手する高村外相。右手前は額賀防衛庁長官(坂本達哉撮影)
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