読売新聞朝刊 1998年2月25日
社説 変革を予感させる金大中新時代
韓国の金大中新政権が内政、外交の「百大課題」を掲げ、二十五日、正式にスタートする。
当面の最大の課題が深刻な経済危機の解決であることはいうまでもない。巨額の国際通貨基金(IMF)融資の条件となっている厳しい経済運営は、新政権にとり、依然重大な試練である。
だが、それをめぐる韓国内の世論の変化にまず注目したい。当初見られた「IMF植民地主義」などの反発が消え、「変わってこそ生き残れる」のスローガンに変化している。団結して、危機に取り組む国民の決意と受け止めたい。
もちろん、これだけで事態打開が楽観できるわけではない。危機が実体経済に影響を広げ、今後さらに国民生活の困窮が予想されている。社会の波乱はまだまだ避けられそうもない。
しかし、この社会ムードの変化は、金大中政権にとって、変革を断行し、政治、経済システムの大変革を呼び込むための追い風となる可能性がある。
政権移行チームはすでに労働市場の流動化を目指した整理解雇制の即時実施や経営責任を問う財閥改革、小さな政府を実現する行政改革などに着手している。
整理解雇制は労働者が「痛みの分担」を受け入れた点でとくに注目される。外国人のM&A(企業の合併・買収)容認措置とともに、外資の流入が期待できよう。タコ足経営の財閥改革は、激しい抵抗が必至だが、成果があれば、経済構造の抜本的変革に結びつくだろう。
いずれも新政権の現実主義と実行力を示すものとして評価したい。
民主政治の一層の推進に、国民との対話を重視する「参加民主主義」を看板にしていることも、好ましい動きだ。政治の透明性が期待できる。開発独裁型のアジア政治に、新しいモデルを提示できるチャンスにもなりうるだろう。
朝鮮半島の平和構築問題はなお大きな挑戦だ。新大統領は「百大課題」の対朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)政策の中で、南北基本合意書(九一年)を軸に、経済協力強化や北朝鮮放送の韓国内での視聴解禁などをうたい、関係改善に意欲的だ。
昨年十二月ようやく実現した南北朝鮮、米中の四者協議に加え、日ロを含めた「北東アジアの平和と安定のための六か国宣言」構想も打ち出した。
問題はこれらの提案に、北朝鮮をどう誘い出せるかである。四者協議も持久戦となる気配の中で、先行き不透明感は否めない。北朝鮮の内部流動のシナリオも視野に入れた対応が必要となろう。
日韓関係は金泳三時代の冷却状態からの好転が期待できる。日本側の漁業協定終了宣言に伴い、韓国側の反発も生まれているが、抑制は効いていると見てよい。
新政権は日本文化の解禁にも前向きだ。大統領自身も含め、政権の陣容には、日本の各界指導者と太い対話のパイプがある。現実主義と未来志向を生かした相互理解の日韓新時代確立の好機としたい。
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