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読売新聞朝刊 1997年11月10日
与党訪朝団の「3党宣言」対応に落差 真価を問われる党外交
 
 自民、社民、新党さきがけ三党の与党訪朝団(責任団長・森自民党総務会長)が十一日、朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)に出発する。訪朝団は、金正日氏が朝鮮労働党総書記に就任して間もない北朝鮮との間で、日朝国交正常化に向けた環境作りを目指す。しかし、訪朝団の前には、戦後補償を明記した九〇年の自民、社会(当時)両党と朝鮮労働党による「三党共同宣言」の取り扱い、日本人拉致(らち)疑惑などの難題が山積している。成果を上げることができるか、党外交の真価が問われそうだ。(関連記事2面)
 〈訪朝の背景〉
 今回の訪朝団は、社民党が代表団の派遣を主張。佐藤孝行・前総務庁長官の任命・辞任問題を機に生じた与党内のきしみに危機感を持った自民党が「社民党との信頼関係回復のため」(自民党幹部)もあって、社民党に歩み寄り実現した。
 与党がもともと訪朝団派遣の目的としていた北朝鮮食糧危機に対する人道的支援は、政府が対北朝鮮コメ支援を決定したことでほぼ達成されている。また、国交正常化交渉再開に向けた政府間の公式協議も再開され、日本人配偶者らの第一陣里帰りも実現した。
 このため、国交正常化交渉再開の障害となっている日本人拉致疑惑などが北朝鮮側との会談の最大の焦点になるが、これまでの北朝鮮の対応からみて「具体的成果は期待できないのではないか」との指摘もある。
 〈北朝鮮の狙い〉
 与党を招いた北朝鮮の狙いについて、朝鮮半島問題の専門家の一人は「崩壊した経済の立て直しは北朝鮮の最重要課題。歴史問題で金を取れる日本とはぜひ正常化したいと考えているようだ」と語る。北朝鮮は与党との間で「戦後四十五年の償い」を盛り込んだ三党宣言を生かし続けながら正常化交渉を進めたいものと見られる。金総書記就任直後の与党訪朝団受け入れ自体が日本を含む国際社会へのアピールになるとの計算もあるようだ。韓国政府が外務省に対し、訪朝延期を要請してきたのは、そうした北朝鮮の思惑に対する警戒感があるからと見られる。
 〈日本側の対応〉
 戦後の償いについては、与党三党とも認めないことで一致、森団長も「戦後の償いは必要ない」と述べている。しかし、共同宣言自体に対しては、自民党が「追認しない」(加藤幹事長)方針なのに対し、社民、さきがけ両党は、党内に「宣言全体をほごにするのはどうか」などの意見があり、明確な対応方針を示していない。
 自民党は最優先課題として拉致疑惑問題を持ち出す方針。党内の訪朝慎重派から「拉致疑惑に毅然(きぜん)とした対応を取るべきだ」との主張が出されているためだ。日本人配偶者の里帰りについても、第二陣、第三陣の時期を確定したい考えだ。
 一方、社民党は、訪朝時に、単独で朝鮮労働党側と会談し、今後の社民党独自の訪朝団派遣について話し合う計画を持っている。
 このため、「三党がばらばらになる危険性」(自民党訪朝団員)もあることから、訪朝団は十日に三党団長会議を開いて訪朝時の対応を改めて協議する予定だ。
 
 写真=11日の出発を前に会談する(左から)さきがけ・堂本、社民・伊藤、小渕外相、自民・森の各氏(7日、外務省で)
 
 
 
 
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