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読売新聞朝刊 1996年9月3日
韓国、軍事交流を多角化 海自艦が釜山港初訪問 朝鮮半島の安定目指す戦略
 
 【釜山2日=宇恵一郎】海上自衛隊の練習艦隊が戦後初めて韓国・釜山港を訪問、二日歓迎式が行われた。日本の軍事力に対し、常々警戒的な世論の強い韓国が積極的な日韓軍事交流に乗り出している背景には、冷戦終結後の東アジアの軍事環境に対応し、周辺国との多角的な軍事協力を通じた平和構造を模索する韓国の戦略がある。
 二日の歓迎式に続いて行われた記者会見で、韓国海軍の徐栄吉・第三艦隊司令官は、「今回の艦隊訪韓は、光復(一九四五年の日本敗戦)後、初めての日本の軍用艦の訪韓という歴史的な意味がある」と強調した。また徐司令官は、十二月中旬に韓国側の訓練艦隊が広島県の呉港を訪問する計画を明らかにし、「こうした日韓相互の交流を通じて、友好親善関係を推進することが重要だ」と述べた。
 日韓の艦隊相互訪問を含む交流は、九四年四月に日本を訪問した李炳台・国防相(当時)が提案。当時朝鮮半島では朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)の核開発疑惑によって緊張が極度に高まっていた時期で、韓国国防相の訪日は初めてだった。軍事同盟関係ではない日韓両国の軍事連携を深め、北朝鮮をけん制する意味もあった。
 その後、九四年十一月と九五年二月に国防政策実務者協議が両国間で行われ、九五年二月には日本の西元徹也・統合幕僚会議議長がソウルを訪問。同五月には韓国の李廷麟・国防次官が訪日、同六月には、日韓軍用機間の偶発事故防止協力を取り決めるなど、加速度的に交流が促進されてきた。
 韓国は、日韓のみならず、ロシア、中国との間での軍事交流も活発に進め、九三年九月、今年七月には、訓練艦隊をロシアに派遣、九三年十月にはロシア艦隊が釜山を訪れている。
 韓国の国防白書(九六年版)によると、「朝鮮半島の安定と平和の恒久的な維持のためには、周辺国間により緊密な軍事協力関係が要求されている」と指摘。「こうした交流を通じて、朝鮮半島の戦争抑止および平和統一の支持基盤の拡大、北東アジア地域の安定に肯定的に寄与する」と強調している。
 こうした韓国が目指す軍事・平和戦略の大きな枠の中で、今回の海上自衛隊練習艦隊の訪問が実現した。それだけに、元来、反日性向の強い韓国マスコミも、「艦隊訪問」について簡単な事実報道にとどめ、批判は抑えている。
 しかし、五十一年ぶりの艦隊訪問が、忘れ去られていた旧日本軍の亡霊を韓国人の意識に呼び戻し日本批判につながる懸念もないわけではない。抗議のため市民とともにふ頭に押し掛けた克日運動市民連合の黄白ゲン・議長(49)は、「日本は過去を反省しないまま、皇軍の復活を目指している」と強く反発している。
 会見した司令官の山田道雄海将補は、こうした反発の可能性を意識しながら、「相互交流を通じて、真の“近くて近い国”との認識を深めるのが目的」と、あくまで友好親善次元の訪問であることを強調した。
 
 
 
 
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