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読売新聞朝刊 1991年5月23日
日朝国交交渉 管轄権では一応の進展 「李恩恵」問題が今後のネックに
 
 【北京二十二日=辻勉】二十二日閉幕した日朝国交正常化第三回本交渉は、朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)が国交樹立にあたって避けて通れない「管轄権」で歩み寄りをみせ、日本側も一定の評価を示すなど、三回目を迎えてようやく実質面で動き出した。しかし、日本側が国交樹立の条件とする核査察受け入れなどに関して、北朝鮮側は一切の譲歩を拒んでいるうえ、「李恩恵」(リ・ウンヘ)問題に対する北朝鮮の激しい反発から、次回交渉日程も設定できずに終わっており、交渉の大局に変化は見られなかった。
 国家の主権の及ぶ範囲である「管轄権」について、日本側は交渉に際し、韓国との関係を損なうことはしないとの立場から、「北朝鮮が管轄権を休戦ラインの南まで主張することは認められない」と主張。これに対し、北朝鮮側は異議を唱え、外交関係設定にあたって管轄権まで明記する必要はないと反論してきた。
 その意味で、今回、日本側の主張を事実上認めた北朝鮮側の提案は、「それなりに評価はできる」(外務省首脳)ものの、外務省からみれば、「北朝鮮側が昨年九月、韓国と外交関係にある日本と国交正常化を提案した時点で、北朝鮮はすでに『全朝鮮半島支配』を捨てたも同然。新味はない」「朝鮮は一つとの従来の主張も提案に盛り込んでおり、必ずしも十分ではない」ということも事実だ。
 むしろ、今回、北朝鮮側が管轄権の問題など国交正常化にかかわる基本問題を決着させ、まず外交関係を樹立しようと執ように迫っていることと考え合わせると、「最も受け入れ難い核査察問題を切り離そうとしている」(外務省筋)との北朝鮮の狙いも垣間見える。
 外務省首脳が二十二日夕、核査察問題について、「北朝鮮は日本の立場を正しく理解していない」と改めて厳しく批判しながら、クギを刺したのも、こうした背景があったといえる。
 また、北朝鮮側が「李恩恵」問題に強く反発したのは、その対応次第では大韓機事件が北朝鮮のテロ行為であったことを自ら容認することにつながりかねず、「現体制の存続基盤にかかわる」(日朝関係筋)ためといえ、日本側も国民世論の手前や交渉戦術の上からこの問題を重視せざるをえない。日本側としては、身元照会要請に対する北朝鮮の撤回・謝罪要求は到底受け入れられず、今後「李恩恵」問題が交渉進展のネックになるのは間違いない。
 こうしたことから北朝鮮側の姿勢に変化がない限り、第四回本交渉の設定にはしばらく冷却期間を置かざるをえないとの見方も出ている。
 
 
 
 
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