読売新聞朝刊 1991年9月14日
社説 北朝鮮は核査察で国際義務を履行せよ
やはり、そうだったか。
その懸念はあったにしても、核査察問題で多少とも朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)に寄せた期待が見事に裏切られた。
国際原子力機関(IAEA)とのいわゆる核査察協定の案文にせっかく合意しておきながら、北朝鮮はその署名を事実上、拒否した。
北朝鮮は協定署名の条件として、在韓米軍の核兵器撤去と北朝鮮に対する核の不使用に関する米国の保証をむしかえした。
北朝鮮の硬い態度には改めて失望したし、何よりも納得がいかない。
本来、核拡散防止条約(NPT)に加入している非核保有国は無条件でIAEAの核査察を受け入れる義務がある。北朝鮮は八五年にNPTに加入している。条約から言えば、北朝鮮はその一年半以内に核査察協定を発効させ、すでに査察を受けていなければならないはずだった。
協定調印に別次元の条件をつけるのは、筋違いである。条約上の義務を履行しないでは、国際社会の責任ある一員としての資格を疑わざるを得ない。米国は核保有国として、条約上の義務を順守している。
北朝鮮がIAEAと協定案文に合意したのは七月十五日で、ロンドンで先進国首脳会議(サミット)が開幕した日である。その一週間前に、北朝鮮は国連に加盟を申請している。国連安保理が南北朝鮮の加盟勧告決議をしたのは八月だ。
サミットでは北朝鮮の核査察問題が取り上げられると予想されたし、実際、その議長声明で北朝鮮に対する重大な懸念が表明された。また、当時、北朝鮮はその国連加盟が認められず、韓国の加盟だけが実現する可能性を考えていたふしがある。
今日の北朝鮮の硬い姿勢をみると、七月に協定案文に合意し、一見、署名への期待を持たせたのは、国際圧力をしのぎ、国連加盟を実現するための戦術だったとみられても仕方あるまい。
十七日からの国連総会で、北朝鮮の国連加盟は実現する。それに伴い、北朝鮮を国家として承認すべきか、日本政府も検討してきた。国際法を順守する意思と能力を持つことが、国家承認の要件の一つだが、北朝鮮の事実上の核査察拒否はそれを疑わせる。承認を急ぐ必要はない。
わが国は北朝鮮での無条件核査察実施を日朝国交正常化の前提条件にしてきた。この姿勢をくずしてはならない。国際社会は引き続き、北朝鮮にその国際義務の履行を強く求めていくべきだ。核拡散防止は今日の国際社会の至上命令だ。
北朝鮮には、核兵器製造能力につながる核燃料再処理工場を建設中だとの疑惑がある。北朝鮮が核武装すれば、北東アジアの安全にとっての重大な脅威だ。地域の核拡散の引き金になる危険がある。
北朝鮮はこの疑惑を解消させてもらいたい。すべての核施設について査察を実現させることがその第一歩だ。北朝鮮が当然の義務を果たしてこそ、在韓米軍の核を含め、朝鮮半島の軍縮・軍備管理への展望も開けてくるだろう。
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