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毎日新聞朝刊 2002年12月14日
社説 北朝鮮 もうこんな手は通じない
 
 北朝鮮政府は12日、米朝枠組み合意に基づいて94年以来凍結されていた核施設の稼働と建設を即時再開すると発表した。
 核凍結解除の理由は日米韓、欧州などで組織する朝鮮半島エネルギー開発機構(KEDO)が重油提供を停止したせいだという。
 だが、重油凍結の発端は北朝鮮が枠組み合意や核拡散防止条約(NPT)、日朝平壌宣言などに違反して、濃縮ウランによる新たな核開発を認めたことにある。
 米政府は「平和的解決」を約束し、KEDOも重油供給再開の条件に「検証可能な核計画の廃棄」を求めている。それが当然のことだ。北朝鮮が「米国は世論を誤導している」と言うのなら、自ら実態を世界に明らかにして説明すればよい。そうすれば、米朝対話再開の環境も整うはずだ。
 この問題では、先月末も国際原子力機関(IAEA)理事会が核計画の実態開示と核査察を求める決議を採択した。まず専門家を派遣して実情を調査する高官協議も提案した。北朝鮮はそれすらも拒んでいる。
 それでなくとも北朝鮮は、イエメン沖でスカッドミサイル15基を載せた輸送船が拿捕(だほ)されたばかりだ。弾道ミサイルの開発・保有国は世界約40カ国にのぼり、ミサイル拡散は世界の安全に対する重大な脅威である。
 北朝鮮はミサイル輸出を「正当な権利」と主張し、貴重な外貨収入源としているが、ミサイル輸出・開発の自粛を求める世界の流れといかに逆行しているかがわかっていない。国際社会の一員としての義務や誓約を果たそうとせず、「譲歩しなければ、もっと悪さをするぞ」とあえて世界の期待に反する行動や違反を重ねる。そんな対応は、みえすいた瀬戸際外交の繰り返しにほかならない。
 日米韓にとって重要なことは、緊密に協調して、冷静な対応を練ることだ。北朝鮮は94年核危機の再現を狙っているのかもしれないが、今の国際世論は当時よりも一段と北朝鮮に厳しい。中露首脳も「朝鮮半島非核化と大量破壊兵器の不拡散が重要」(2日)と声明を出している。核凍結解除は、韓国大統領選にも影響するだろう。
 北朝鮮が直ちに凍結施設の稼働と建設を再開しても、核兵器用プルトニウムを量産するには1年から5年近くかかるという。凍結施設の封印や監視カメラは国連安保理の指示の下にIAEAが管理してきた。撤去を強行したり、NPT脱退という事態になれば、問題は安保理に付託される可能性が高まるのではないか。
 そうなれば、問題はイラクと同様に「国連と国際社会対北朝鮮」の次元に移る。北朝鮮の孤立は一層深まり、国連制裁にも発展しかねない。かたくなに破天荒な一本道を突っ走るならば、その先は破たんと崩壊しかない。
 枠組み合意を危険にさらし、対話と協調を拒んでいるのは北朝鮮だ。日米韓ともに、対話の道はいつでも開かれている。瀬戸際外交はもはや通用しない。北朝鮮はそのことを早くさとってほしい。
 
 
 
 
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