毎日新聞朝刊 2002年12月24日
社説 北朝鮮核開発 撤去した封印を原状に戻せ
北朝鮮政府は21日、米朝枠組み合意に基づいて94年以来凍結されていた寧辺の実験用黒鉛減速炉(5000キロワット級)などの核施設を監視する国際原子力機関(IAEA)の封印を撤去し、監視カメラも作動不能にした。
9日前、北朝鮮は朝鮮半島エネルギー開発機構(KEDO)による重油提供凍結の対抗措置として「核凍結解除」を宣言した。今回はそれを実行したものだ。
国際社会の説得に耳を貸さずにとった一方的行動は、枠組み合意を自ら崩壊の危険にさらす無謀な振る舞いとしか言いようがない。封印と監視機器を即時原状回復するよう、北朝鮮に強く求める。
そもそも重油提供凍結の原因は北朝鮮にある。10月の米朝高官協議で、ウラン濃縮による新たな核兵器開発計画を北朝鮮が認めたのが発端だ。計画が枠組み合意ばかりか、朝鮮半島非核化に関する南北共同宣言、核拡散防止条約(NPT)やIAEAとの保障措置協定、日朝平壌宣言にも違反するのは明白だ。日米韓、欧州が「検証可能な目に見える形」で計画廃棄を求め、中国やロシアも「朝鮮半島非核化が重要」と指摘しているのはしごく当然のことだ。
それなのに、北朝鮮は「電力調達」を理由に封印を撤去した。凍結された再処理施設を稼働させて、プルトニウムを抽出可能な8000本の使用済み燃料棒の再処理に及べば重大な問題だ。米国などの出方を見つつ、これらの手段や査察官の国外退去などを「カード」にして、段階的に危機を高めるつもりかもしれない。
イラク問題を控える米国や拉致問題を抱える日本にとって、対応はやっかいだ。大統領選を終えたばかりの韓国も、「太陽政策」継承と反米感情に揺れている。北朝鮮がこの時期を選んだのは、盧武鉉(ノムヒョン)次期大統領に揺さぶりをかけて日米韓の協調にくさびを打ち込む狙いもありそうだ。
だが、言葉による威嚇と具体的行動は別だ。米国や国際社会の批判は高まっている。自在に危機を操れるゲームだと北朝鮮が思っているなら、とんだ間違いだ。
封印や監視機器による核施設凍結は、国連安保理がIAEAに命じたものだ。エルバラダイIAEA事務局長も、このままでは問題を安保理に報告せざるを得ないと繰り返し警告している。
そうなっては単に米朝間の違反ではおさまらない。国連制裁も現実味を帯びる。危険な核の火遊びを続けると、最後はイラクと同じように、世界を敵に回す道をたどることになりはしまいか。
日米韓は協調と結束に向けて、入念な外交努力がほしい。日米、日韓外相協議を踏まえ、北朝鮮に枠組み合意に戻るよう説得を重ねるのも重要だが、安保理での対応も視野に入れる必要がある。
危機を演出することで日米韓などとの交渉に有利な条件を作り出そうとしても、北朝鮮は何の得にもならない。自らを世界から孤立させ、進んで破滅に向かう行動をやめることだ。封印と監視機器の原状復帰がその第一歩となる。
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