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毎日新聞朝刊 2002年10月23日
社説 米朝枠組み合意 核カードはもう許されない
 
 ブッシュ米大統領は21日、北朝鮮の核開発について「地域の友人や他の国々と協力して、重大な兵器の拡散に対処する」と述べた。日韓や中国、ロシアなどとの協調外交を通じて平和的解決をめざす姿勢を表明した。
 北朝鮮による核開発の事実が発覚して以来、軽水炉供与と引き換えに核兵器開発の全面凍結を約束した米朝枠組み合意(94年)が崩壊の危機にさらされていた。
 合意の前途に関してまだ大統領は明言していない。しかし、茂木敏充副外相と会談したアーミテージ米国務副長官や来日したケリー国務次官補は「性急に(合意破棄の)結論を出すことは考えていない」と述べた。「合意は無効」と言ったとされる北朝鮮も、平壌放送(21日)を通じて合意を維持する必要をにじませてきた。
 そうした文脈から見て、ブッシュ発言は当面、米側から合意を破棄しない方針を示唆したものと解釈していいだろう。
 米国が各国と協調して粘り強く外交的解決をめざす姿勢として、評価したい。一足飛びの強硬策や対話の途絶は、日韓も支持できる情勢にはないからだ。
 だが、それが直ちに無原則な取引を意味するものでないことを北朝鮮に明確に示す必要がある。
 ケリー次官補に対して北朝鮮は(1)米朝平和条約締結(2)先制攻撃対象にしない(3)北の政治・経済体制の是認――と引き換えに核開発中止を打診したと伝えられる。
 核開発は、核拡散防止条約(NPT)や朝鮮半島非核化に関する南北共同宣言に照らしても重大な誓約違反だ。国際社会に対する許し難い裏切り行為にほかならない。それを新たな交渉カードに使うなどといった考えは、もってのほかである。
 ブッシュ政権は25日の米中、26日の日米韓の首脳会談を通じて関係国の一致した外交圧力を高める方針だ。合意に反する道を突き進めば、北朝鮮が失うものは多い。朝鮮半島エネルギー開発機構(KEDO)による軽水炉建設が宙に浮く。米国が北朝鮮に提供してきた重油(年50万トン)の流れも途絶える。北朝鮮と関係正常化を進めてきた欧州連合(EU)も「核開発をやめなければKEDO支援継続は難しい」(パッテン欧州委員)と米国を後押しする構えだ。
 何よりも、世界と日米韓が一致協力して北朝鮮問題に取り組んできた基本的な枠組みが失われる。政治とは別の次元で行われてきた国際社会の人道支援も冷え切ってしまうのではないか。
 北朝鮮が即座に核開発をやめて枠組み合意を順守しなければ、各国の風当たりは強まる一方だ。その先にあるのは、世界からの孤立に舞い戻ることでしかない。
 29日からの日朝正常化交渉は、北朝鮮の誠意を見定める重要な機会となる。核廃絶を掲げる日本にとっても、核は拉致と並ぶ重大な関心事だ。瀬戸際外交や姑息(こそく)なカード外交がもう通用しないことを北朝鮮に自覚させ、誠実な対応を引き出すように全力をあげて臨んでほしい。
 
 
 
 
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