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毎日新聞朝刊 2002年8月1日
日本、「拉致」問題前面に 懸案解決を優先−−日朝外相会談
 
 31日に開かれた2年ぶりの日朝外相会談は、川口順子外相が日本人拉致問題に直接言及しながらも、朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)の白南淳(ペクナムスン)外相は抑制的な対応を見せる展開になった。日本側としては「種々の懸案を避けて正常化交渉だけ進める気は全くない」との原則を鮮明にした。ただ、北朝鮮は「過去の清算」という重い課題を突きつけており、懸案解決に向けた交渉の行方は依然不透明だ。
 「拉致問題は、わが国民の生命にかかわる問題だ」。川口外相はそう明言して日本人拉致問題の解決を迫った。00年7月の日朝外相会談で、当時の河野洋平外相が「我々が懸念を持っている問題があることはお分かりですね」と間接的な表現にとどめていたことに比べれば、際立った違いだ。
 日本側の拉致問題をめぐる積極姿勢の背景には、厳しい国内世論の後押しとともに、北朝鮮に強硬姿勢をとるブッシュ米政権の登場がある。日朝外相会談を前に、外務省の田中均アジア大洋州局長が訪米した際、アーミテージ米国務副長官は「北朝鮮にきちんとモノを言ってほしい」と注文し、無原則にコメ支援を繰り返してきた従来の姿勢からの転換を求めた。
 一方、白外相は川口外相が「拉致」という言葉を使ったにもかかわらず「大臣の指摘を理解している」と柔軟に対応した。北朝鮮側が黄海での南北交戦に遺憾の意を表明し、南北閣僚級会談の再開を提案したことを考え合わせると、日本と韓国に経済援助を期待しているというメッセージを送ったと受け止められる。
 深刻な食糧不足が続く北朝鮮にとって、経済援助を期待できるのは日韓両国以外にはない。国際社会からの決定的な孤立化は、国家基盤の崩壊につながるおそれがある。共同発表文には「人道上の懸案問題」という表現が使われており、記録として残らない形を取ることで、北朝鮮側が譲歩したものとみられる。
 ただ、白外相は「過去の清算」の処理を求めることを忘れなかった。外務省幹部は拉致問題を明確にした会談の意義を強調しつつも、「懸案解決が容易に進むとは思わない」と交渉の難しさを認めている。外相会談は国交正常化交渉の再開に向けたはるかなる一歩に過ぎない。【バンダルスリブガワン桜井茂、堀信一郎】
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 ◇日朝外相会談要旨
 31日に開かれた日朝外相会談のやりとりの要旨は次の通り。
 《国交正常化》
 川口順子外相 人道上の問題、安全保障上の諸問題に北朝鮮が誠意を持って取り組むことが重要だ。前向きな対応を期待したい。
 白南淳外相 日本が誠意を持って関係正常化を進めるのであれば、誠意を持って取り組む。
 《拉致問題》
 川口外相 拉致の問題は、わが国民の生命にかかわる重要な問題だ。よど号犯についても彼らの引き渡しを要請したい。
 白外相 日本政府が、川口外相が指摘した懸案事項に重要な関心を持っていることを理解している。大局的に問題解決にあたりたい。【バンダルスリブガワン浦松丈二】
 ◇日朝共同発表文
 ブルネイで31日開かれた日朝外相会談に関する共同発表文の内容は以下の通り。
 一 双方は、日朝関係を改善し、この地域の平和と安定に資するために国交正常化を可能な限り早期に実現すべく、過去の清算に関する問題をはじめ、日朝間の諸問題を解決するために真剣な努力を行っていくことにつき意見の一致を見た。
 この関連で、人道上の懸案問題につき、誠実に対応するとともに、できる限り早期の解決を目指すことにした。
 二 双方は、朝鮮半島とその周辺地域における緊張緩和のために努力を行うことの重要性を確認し、このために関係諸国との間で対話を促進することが必要であるとの点で意見の一致を見た。
 三 双方は、国交正常化に関する諸問題及び互いが関心を有する諸懸案を議論するため、外務省局長級協議を8月中に開催することとした。
 四 双方は、人道問題の解決に資するため、両国赤十字会談の次回会合を8月中に開催するよう協力することとした。
□写真説明 31日、ブルネイで会談する川口順子外相(右)と北朝鮮の白南淳外相=ロイター
 
 
 
 
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