毎日新聞朝刊 2002年8月26日
日朝協議 拉致問題「多国間」テコに 2国間解決に限界も
【平壌・三岡昭博】25日から始まった日朝外務省局長級協議は初日、日本が「拉致問題」、朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)が「過去の清算」を前面に掲げ「原則論」をぶつけ合う展開となった。一方、日本側が北東アジアの平和を話し合う「6者協議」(南北朝鮮プラス日米中露)を北朝鮮に提起した背景には、国際的な対話の枠組みに北朝鮮を引き入れ、拉致問題を含めた日朝間の懸案解決のテコにしたい思惑があるようだ。
「(拉致問題など)ものごとが動くとしたら、交渉によってではないと思う」。局長級協議を前に、外務省幹部はこう語った。北朝鮮の姿勢を変えるには、国際情勢の変化と、最高指導者・金正日(キムジョンイル)総書記の政治決断以外にはありえないというわけだ。
日本は今年に入り、米韓はもちろん、中国やロシア、欧州連合(EU)に拉致問題の重要性を訴え、北朝鮮への働きかけを求める戦略を進めてきた。小泉純一郎首相は6月の主要国首脳会議(サミット)で、初めて拉致問題を提起した。
また、北朝鮮が「唯一の交渉相手国」と位置付ける米国の後押しが不可欠とあって、川口順子外相が6月の日米外相会談で「北朝鮮との関係改善のうえで拉致問題は避けて通れない。北朝鮮に提起してほしい」とパウエル国務長官に要請。ケリー国務次官補(東アジア・太平洋担当)が毎日新聞のインタビューに対して「(米朝対話で)確実に取り上げる」と語るなど、日本なりに布石を着々と打ってきた。
朝鮮半島の平和と安定に向けた南北朝鮮、米中の4者協議に日露も加える構想は98年10月、小渕恵三首相が提唱したが、立ち消えになっていた。それを改めて北朝鮮に提唱した背景には、先の露朝首脳会談に見られるように、朝鮮半島の和平に向け積極的な関与を示しているロシアの姿勢がある。北朝鮮が、国際社会の協力を前提に経済立て直し路線を模索しつつあることも大きい。
「拉致は、拉致問題として解決できる問題ではない」(外務省幹部)。「急がば回れ」とも言える日本の戦略には、国際情勢の変化を活用し何とか拉致問題解決の糸口を見いだしたいとの思いがうかがえるが、具体的進展が得られるかは不透明だ。
◇姜・第1次官と日本側が会談へ
日本側代表団は26日、北朝鮮の姜錫柱(カンソクチュ)・第1外務次官と会談する。姜次官は金正日総書記の側近で、94年の米朝枠組み合意を実現した立役者。
□写真説明 北朝鮮の馬哲洙・アジア局長と握手する田中均・アジア大洋州局長(右)=人民文化宮殿で25日午前10時1分、三岡昭博写す
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