毎日新聞朝刊 2001年3月9日
社説 米韓首脳会談 仕切り直しで協調固めよ
金大中(キムデジュン)韓国大統領とブッシュ米大統領による初の米韓首脳会談が7日、ワシントンで行われた。
会談の最大の焦点が、ブッシュ新政権の朝鮮半島政策の方向と、金大統領の「包容(太陽)政策」を含む日米韓3カ国の協調体制の仕切り直しにあったのは言うまでもない。
ブッシュ大統領は、就任前から朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)を「民主主義諸国への脅威」ととらえ、クリントン政権下で進められた米朝対話のあり方にも強い疑問を示していたからだ。
両大統領は南北和解の意義、包容政策の支持、ジュネーブの米朝枠組み合意(1994年)維持などをうたった共同声明を発表した。大筋では、今後も日米韓の緊密な協議と協調を柱として北朝鮮と取り組んでいく原則を確認した。
しかし、現実面では米韓の温度差が際立っていた。ブッシュ大統領は「金正日(キムジョンイル)体制には疑念がある」と述べ、「どんな交渉も合意も、完全な検証が必要だ」と力説した。米高官によれば、北朝鮮政策の基本となっていたペリー元国防長官の勧告(ペリー・プロセス)は提言の一つにすぎず、実質的に効力を失った。
この背景には、昨年の歴史的な南北首脳会談以来、米国の主導権が一時的にせよ失われたことも影響している。韓国内で緊張緩和ムードが先行したことに加えて、中国、ロシアは朝鮮問題に積極的に関与する姿勢をいっそう強めている。
プーチン露大統領が持ち出した衛星打ち上げ提案をきっかけに、米朝ミサイル協議はクリントン訪朝問題ともからんで、拙速とも言える形で急進展しかけた。残る任期1年に迫った金大統領も、内政がらみで南北対話の成功に執着している。
それがブッシュ政権の目には「安全保障面などで具体的な成果を得られないままに、譲歩を重ねている」と映りやすい。
米国は首脳会談の場で「米韓同盟の意義」の再確認をあえて韓国に求め、金大統領から「あらゆる段階で米国と協議を重ねる」という発言も引き出した。金大中政権後の動きもにらんで、韓国側の手綱を引き締めようという米国の狙いが見える。
パウエル米国務長官は「米朝対話をいつ、どのように再開するかは我々が決める。急ぐ必要はない」と語った。北朝鮮政策の仕切り直しには数カ月かかるかもしれない。
米韓首脳会談が投げたメッセージの対象は、同盟国だけではない。北朝鮮に対しては、今後とも日米韓3カ国の協調体制が堅持され、査察・検証面の具体的な保証がなければ新たな米朝対話の進展が望めないということだ。北朝鮮は枠組み合意破棄やテポドンなどのミサイル発射凍結解除をにおわせているが、そうした「瀬戸際外交」がつねに成功すると思っては困る。国際社会が求める安定と平和の回復に責任を持って、前向きに臨むべきだ。
問題は日本である。朝鮮半島問題にどう取り組むのか。腰をすえて、じっくりと戦略を練る好機ととらえるべきなのに、日本の政治指導体制は底知れぬ空白が続いている。
3国そろって取り組むべき重要な仕切り直し作業に、日本の明確な姿も、意思表示も見えないのは困ったことだ。
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