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毎日新聞朝刊 2001年1月20日
社説 ブッシュ政権発足 日本の主体性が問われる
 
 米国の第43代大統領としてジョージ・ブッシュ氏(54)が20日、就任する。
 クリントン時代は「冷戦後の10年」の大半(2期8年)を担った。ブッシュ新政権は「新世紀の秩序づくり」を担う。ブッシュ氏はクリントン時代を「繁栄にあぐらをかいて何もしなかった」と批判し、「豊かな時こそ、米国の真価が問われる」と語ってきた。生まれ年も同じベビーブーマーだが、両氏の世界観の違いは大きい。新政権のかじ取りも様変わりするだろう。
 日本も、これを機に過去8年の米国とのかかわりを総括し、新たなかかわり方に思いをめぐらす時だ。
 違いが明確に予告されているのはアジアである。クリントン政権は冷戦後の世界戦略に「米経済重視」を据えて、アジアでは中国重視に傾いた。経済でも安全保障でも一貫性を欠き、その結果として「米国ひとり勝ち」を実現したものの、日本は脅威の対象から、最後には軽視され、無視されかねない存在に陥った。
 日米同盟には、漂流の危機もあった。安保共同宣言(1996年)、日米防衛指針(ガイドライン)関連法整備(99年)などの安保再定義を経た後でさえ、沖縄基地問題や「思いやり予算」などをめぐるぎくしゃくした思いは今も続いている。
 ブッシュ新政権は「同盟重視」を強調し、パウエル新国務長官は議会公聴会で「同盟諸国とりわけ日本との強固な関係がアジア太平洋の基盤で、すべてがそこから始まる」と述べた。クリントン氏が「戦略的パートナー」と持ち上げた中国は「戦略的競争相手」に格変えされ、対朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)政策も「相互主義に立って見直す」という姿勢だ。
 だからといって、日本が甘い期待を抱いては道を誤るだろう。
 第一に、「同盟重視」とは中国を敵視したり、日本をちやほやすることではない。すでに新政権を包む対日専門家の間では、安保条約に基づく同盟を旧来の「負担の共有(バードンシェアリング)」から「力の共有(パワーシェアリング)」という全く新たな関係に改める構想が明らかにされている。
 力の共有とは、互いの国益、利害得失、外交理念などを入念に話し合った上で、日米共通の戦略を練り上げ、危機に対応するリスクも共有する考え方だ。別な言い方をすれば、同盟の「再々定義」が遠からず日米間の至上課題にのぼるはずだ。
 そこでは憲法や集団的自衛権、有事法制など、踏み込んだ検討と国民的論議が求められる。これに正面から応えるには、米国と国内世論の両方に向き合う主体的な政治指導力が欠かせない。そのためにもまずは日本経済を立て直す努力が肝心だ。
 日中関係をいかに発展させるか、日米中の利害をどう調整すればアジアの平和と繁栄に役立つか。朝鮮半島の緊張緩和と日朝正常化交渉をどう展開すべきか。すべてに日本の主体的判断と自立した外交戦略を持たなければ、「同盟重視」の呼びかけは一方通行に終わりかねない。
 日本政府は新政権に対応して、包括経済協議に代わる円卓会議や、同盟強化をめざす賢人会議の創設を提唱した。そうした場が無益な時間かせぎに終わらないようにして、戦略的対話を育てたい。
 
 
 
 
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