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毎日新聞朝刊 2000年9月25日
社説 日韓首脳会談 揺るがぬ「協力」の布石に
 
 静岡県熱海市で行われた日韓首脳会談では、最近の良好な両国関係を反映し、くつろいだ雰囲気の中で論議が交わされた。
 日韓関係の安定と発展は、日本外交の大きな柱である。定住外国人の地方参政権問題などいくつかの懸案もあるが、日本と朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)の国交正常化交渉を進めるためにも、協力が不可欠だ。
 21世紀の揺るがぬ協力関係を作るために、両政府は広い視野に立ち、懸案の解決に臨むべきだろう。解決しやすい問題には、率先して取り組むようにしたい。
 日韓関係が見違えるように良くなったのは、一昨年10月、金大中(キムデジュン)大統領が訪日してからだ。日韓共同宣言を通じて、「過去の問題」に一区切りがつけられ、両国間の確執や感情的対立が少なくなった。
 ソウルで行われた日本のポップスグループの公演に多くの韓国人ファンが詰め掛け、日本では韓国の映画がヒットした。
 国民間の文化交流は、相互理解の基礎であり出発点である。首脳会談で、森喜朗首相は大学入試センター試験の科目に韓国語を導入する方針を明らかにした。その努力のひとつとして評価したい。
 定住外国人への地方選挙権付与法案について、両首脳はすれ違いを見せた。金大統領は「年内成立」への期待感を表明したが、森首相は「わが国制度の根幹にかかわる問題であり、関心を持って注意を払っていきたい」と述べるにとどまり、慎重な対応に終始した。
 この問題は日本社会の将来を考える時、避けて通れない問題である。本格的な論議が必要だが、政府・与党の対応には揺れが目立ち、国民的合意を取り付けるには程遠い。
 選挙権付与に積極的な野中広務自民党幹事長は最近、自民党内の反対論に配慮してか、その対象を朝鮮半島から強制連行された人やその子孫に限定する考えを示した。
 しかし、この修正案はいささか過去志向的すぎるのではないか。ニューカマーと言われる他の一般的な定住外国人とのバランスを欠くことにもなる。また地方選挙権という国家の基本にかかわる問題が、こうも簡単に与党首脳の政治的判断で変わるようでは、国民の不信感を招くだけだろう。
 日本の国内世論が熟成するまで、少し時間がかかりそうだ。韓国側にも理解を求めたい。
 知恵を出し合えば、解決できる問題もある。
 金大統領は「東京とソウル間に、米国のニューヨーク・ワシントン間のようなシャトル便を創設したらどうか」と提唱した。
 これは東京(羽田空港)とソウル(金浦空港)間の日韓路線を、「準国内便」扱いにする構想を念頭に置いた発言と見られる。日本の経済界や政治家の一部からも、同様な構想が提起されてきた。2002年のサッカー・ワールドカップ日韓共催を控えて、積極的に検討し推進すべき提案だ。
 昨年、日本からの韓国渡航者が210万人、韓国からの日本渡航者が116万人に達した。02年は「日韓国民交流の年」でもある。
 若い世代を中心に、新しい両国関係を構築していく絶好の機会だ。双方はこのチャンスを最大限に活用すべきである。
 
 
 
 
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