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毎日新聞朝刊 2000年8月25日
社説 日朝正常化交渉 政府間対話をより活発に
 
 日本と朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)の第10回国交正常化交渉が24日まで行われた。双方は「過去の清算問題」「日本人拉致(らち)、ミサイル問題」などの懸案について協議した。見解の対立にもかかわらず、席を立つこともなく、実務交渉の継続を確認したことを、まず評価したい。
 1992年5月、大韓航空機爆破犯の教育係、李恩恵問題をめぐって日朝間の実務者協議が決裂した当時とは、大きな様変わりである。北朝鮮側の柔軟姿勢を歓迎する。
 今回の交渉は、朝鮮半島に「平和共存」の時代を開いた南北首脳会談後、初めて開かれる政府間の実務交渉として注目された。
 いくつかの前向きの変化が、双方に見られた。
 本会談の前、河野洋平外相は交渉会場付近に集まった人たちに触れ、「あの中には拉致された被害者の家族がいる」と指摘し、北朝鮮側に「調査」を改めて要請した。7月の日朝外相会談で、同外相が拉致問題であいまいな表現に終始したのと比べると、一歩前進だ。
 これに対して、北朝鮮の鄭泰和(チョンテファ)首席代表は「拉致というものは存在しない」と公式見解を述べたものの、同時に「ああいう問題を起こさないように善隣友好関係を築かないといけない」と語り、従来とは異なる微妙な変化を見せた。
 私たちは日朝正常化交渉について「過去の清算」「拉致、ミサイル問題」の並行協議と、一括妥結の原則を提唱してきた。北朝鮮の対応の変化は、この方式の正しさを立証したと言えるだろう。
 交渉は7年5カ月ぶりの再開後、平壌、東京での会談を重ね、ひとまず軌道に乗った。次回以降、北京に舞台を移しての交渉が正念場になりそうだ。
 北朝鮮側が「20世紀のわだかまりは21世紀に持ち込むべきではない」(鄭代表)と、正常化に意欲的であることを見逃してはならない。
 必要なのは、信頼の構築だ。北朝鮮の鄭代表はインタビューに答えて「(日本の中で)権力を持っている人たちは国交正常化に熱心でない。正常化を願う人たちには権力がない」と述べたという。このような誤解は払拭(ふっしょく)されなければならない。
 日本政府と国民の多くは、国交正常化を願っている。それは北東アジアの平和にとって不可欠である。「過去の清算」についても誠実に対応する用意がある。
 このメッセージを北朝鮮側に正しく伝えるために、日本政府は政府間対話の機会を最大限に活用すべきだ。河野外相は白南淳(ペクナムスン)・北朝鮮外相との再会談を推進すべきだろう。
 森喜朗首相は9月の国連総会に出席するため、ニューヨークに向かう。北朝鮮からは同総会に序列ナンバー2の金永南(キムヨンナム)氏(最高人民会議常任委員長、形式的には国家元首)が参加する公算が大きい。こういった対話の機会を逃すべきでない。
 9月中旬、金正日(キムジョンイル)総書記の側近である金容淳(キムヨンスン)書記がソウルを初訪問する可能性がある。同月下旬には金大中(キムデジュン)・韓国大統領が南北首脳会談以後の成果を引っ提げて来日する。
 日朝正常化交渉は、将来的に日本側の政治決断が必要な時期が来るだろう。韓国側とも十分な協議を進めておくべきだ。
 
 
 
 
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