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毎日新聞朝刊 2000年6月14日
社説 南北首脳初会談 未来のため着実な対話を
 
 南北朝鮮首脳の歴史的な握手は、実に劇的だった。
 13日午前、平壌郊外の順安空港。専用機のタラップを降りる金大中(キムデジュン)・韓国大統領を出迎えたのは、朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)の最高指導者、金正日(キムジョンイル)総書記だった。がっちりと握手を交わす2人の姿が、世界に向けて生中継された。
 分断以来55年ぶりに実現した南北首脳による初会談の滑り出しは、予期された以上に順調である。
 「長い歳月を遠回りに遠回りして、やっとのことで、ここ(平壌)まで来ました」
 金大統領の感慨は、韓国民共通の思いであろう。私たちは、この歴史的な対面を心から祝福し、平壌での首脳会談が朝鮮半島の平和定着のために、揺るがぬ土台になるよう期待したい。
 ちょうど50年前の6月、同じ民族同士が争った朝鮮戦争が始まった。両国民だけでも約126万人が死亡し、約1000万人といわれる離散家族を生み出した。その後も不信と対立の歴史を繰り返し、南北共同声明(1972年)、南北基本合意書(92年)などの進展があったものの、両首脳による直接対話は実現していなかった。
 南北首脳会談の実現は、金大統領が一貫して推進してきた北朝鮮への包容(太陽)政策の成果である。会談を受け入れた金総書記の決断も高く評価したい。
 両首脳による直接対話は、朝鮮半島の平和構築のための基本軸である。世界から信頼される両国関係を作るために、両首脳は率直に話し合ってほしい。
 20世紀が終わろうとする今、平壌での首脳会談は朝鮮分断史の転換点にならねばならない。そのような歴史的使命を帯びている。
 しかし、会談に過度の期待をかけるのは禁物である。金大統領もソウル出発に当たって「すべての問題を今回一回だけで解決できるとは考えていません」と述べている。
 会談初日を終えた両首脳に、それぞれ要望したい。
 まず金総書記は、金大統領との対話を通じて、明確なメッセージを平壌から世界に向けて発信してほしい。
 南北朝鮮の平和定着のために、どう行動するのか。北朝鮮は今後、東アジアの周辺国とどんな関係を結ぶのか。世界が金総書記の発言を注目している。「神秘的な指導者」のイメージを引きずることは、北朝鮮にとってマイナスである。
 金大統領には平壌訪問を通じて、金総書記と虚心坦懐(きょしんたんかい)に話し合える関係を作ってきてほしい。経済的な困窮が深まる北朝鮮を世界に向けて開かせるのは、アジアを代表する政治家にふさわしい仕事だ。
 日朝関係正常化にかける日本側の熱意と、核・ミサイル開発や日本人拉致(らち)に対する憂慮を、金総書記に語ってほしい。北朝鮮主導の会談になるのを韓国側として避けるのは、言うまでもない。
 両首脳は空港から同じ車に乗り、平壌市内の招待所(迎賓館)に着いた。金総書記は「(南北は)近いのだから、行ったり来たりしたい」と語ったという。
 金総書記のソウル訪問を期待したい。これは相互主義の原則だ。「一過性の政治ショー」を繰り返してはならない。
 
 
 
 
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