日本財団 図書館


毎日新聞朝刊 1998年9月7日
社説 北朝鮮 国際社会へ説明が必要だ
 
 朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)の最高人民会議は5日、金正日(キムジョンイル)総書記を国防委員長に再任した。北朝鮮高官の説明では、国家の最高ポストに就任したという。しかし、これだけの説明では何が変わりどのような体制になったのか、国際社会は理解できない。
 今回の最高人民会議では憲法の改正と国防委員長、国家機関の責任者の選出が行われた。予算や経済計画の承認などの議題は提出されなかった。
 改正憲法の内容は6日報じられた。それでも、北朝鮮の権力機構の変化を正確に理解するのは難しい。
 国家主席制度が廃止されたことから、国防委員長に権限が集中したのであろうと思われたが、改正前の憲法と大きな違いはなかった。国防委員長がどうして「国家の最高位」になるのか、なお理解しがたい。
 国家主席の称号は、故金日成(キムイルソン)主席にだけ使われることになった。北朝鮮の国家主席は、1992年の憲法改正で軍に対する統帥権を失い、どちらかといえば象徴的なポストになっていた。
 軍に対する統帥権は、国防委員長に移譲された。この軍への統帥権と国家統治権の分離は、金正日総書記への後継体制を準備するために行われたとみられていた。
 主席のポストが廃止された結果、政府に対する国家主席の権限は国防委員長に移されたとみていいのだろうか。国防委員長という肩書で、軍と政府の権限を握るシステムは、現代の国際社会ではなかなか理解されがたい。
 このため「軍を前面に押し立てた統治」「軍出身者重視」の解釈が広がっている。本当に、軍人中心の国防委員会に権限が集中することになったのだろうか。
 今回の人事に関連して関心を集めているのは、労働党の新幹部とその権限である。最高人民会議の前に労働党中央委総会が開かれたのは間違いないが、党中央委員や政治局員、書記などの新しい顔ぶれについての報道がまったくないのだ。
 北朝鮮は、党が政府を指導する体制を取っている。その党の権限と政府と党の関係に、変化があったのかどうかについても何も報道されていない。
 これでは、国際社会は北朝鮮とどう付き合っていくかに、戸惑うばかりである。北朝鮮が、食糧難を乗り越え経済困難を克服するには、国際社会の協力が不可欠だ。外国からの投資や技術の導入も必要になる。
 北朝鮮は、国内経済の打開に取り組むのをはじめ海外からの資本導入を図ろうとしている。それには、国内が安定し朝鮮半島での緊張緩和が推進されなければならない。また、何を考え何を目指しているのかを国際社会にわかりやすく説明する必要がある。
 新しい指導者が公式に就任し、建国50周年を迎える北朝鮮には、外に開かれた対応が求められる。北朝鮮の人工衛星発射成功の発表についても、国際社会はなお疑問のまなざしを向けている。国際社会が納得し得るきちんとした説明が行われないからである。
 新しい指導体制では、首相や外相などの閣僚の顔ぶれも一新した。この新指導部の出発をきっかけに、国際社会から尊敬され尊重される国づくりを目指してほしい。
 
 
 
 
※ この記事は、著者と発行元の許諾を得て転載したものです。著者と発行元に無断で複製、翻案、送信、頒布するなど、著者と発行元の著作権を侵害する一切の行為は禁止されています。








日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION