日本財団 図書館


毎日新聞朝刊 1998年3月23日
[社説]4者会談 朝鮮半島の春はなお遠い
 
 朝鮮問題は、男女関係によく似ているといわれる。一方が積極的に迫ると、他方はそっけない態度を示す。それではと無視すると、気があるような様子を見せる。関係国が南北の一方と親しくなると、しっとにも似た対応に悩まされることもある。
 ジュネーブで行われた朝鮮問題4者会談は、大きな成果を生みだせなかった。4者会談本会談は、今回が2回目であるが、前進をみるにはなお時間がかかりそうだ。
 今回の会談は、韓国の金大中(キムデジュン)政権発足後初の会談として、何らかの進展が期待された。しかし、南北の当事者はともに、相手の考えと出方を探る駆け引きに終始してしまったようだ。
 朝鮮問題の4者会談は、クリントン米大統領と金泳三(キムヨンサム)韓国大統領が一昨年の4月に提案した。南北朝鮮と米中の4カ国による会談である。
 4者会談では、現在の朝鮮休戦協定に代わる平和システム作りが話し合われることになっている。しかし、会談に臨む南北はもとより米中の思惑は、かなり異なる。これが会談の前進を難しくしている。
 朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)は、4者会談を米朝を軸にした会談である、と位置づける。韓国の存在を公式には認めない政策を、なお貫いている。このため、会談の席の配置では米国と相対して座る場所を求めた。米朝が中心の会談であることを、強調するためである。一方韓国は、南北が中心で米中はわき役である、との解釈にこだわる。
 金大中政権は、4者会談と並行して南北対話を推進する方針だ。そのため、南北基本合意書の復活を呼びかけている。
 韓国の立場は、4者会談での協議を軍事問題と平和協定の締結に限定し、その他の問題は南北対話で処理するという政策である。そのため、南北対話の再開を求めている。
 北朝鮮側は、この韓国の呼び掛けになお態度を明らかにしていないが、いずれにしろ対話は再開されるだろう。これまでも、政権が代わるたびに対話を再開してきたからだ。
 期待に反して、4者会談や南北対話が進展しなかった背景には、米国の長期戦略の欠如がある。また、4者会談を食糧支援の獲得などに利用しようとする北朝鮮は、在韓米軍撤退を駆け引きのカードにしている。
 米国は、4者会談で何を実現し何を北朝鮮に与えるのかについての戦略を、明確にしていない。北朝鮮が求める経済制裁の全面解除と、国交正常化に至る道筋をはっきりと示していないのである。これが、北朝鮮をちゅうちょさせているようだ。
 だが、今回の会談での南北の代表の発言をみると、当事者による問題解決では一致している。また、朝鮮半島内での対話推進の原則にも、違いはない。
 それならば、やはり早期に南北対話を再開すべきである。当事者同士が直接の対話の窓口を持たず、第三者が同席する4者会談の席でしか意見を交換できないのは、異常な状態というしかない。
 南北対話の再開は、4者会談の重要性を低下させるわけではない。対話と問題解決に多くの場が築かれることになる。4者会談を継続させながら、民族同士の問題を解決するために、南北対話の早期再開を実現してほしい。
 
 
 
 
※ この記事は、著者と発行元の許諾を得て転載したものです。著者と発行元に無断で複製、翻案、送信、頒布するなど、著者と発行元の著作権を侵害する一切の行為は禁止されています。








日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION