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毎日新聞朝刊 1997年9月29日
社説 朝鮮問題 対話の枠組みを維持せよ
 
 朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)との各種の対話が閉ざされている。米朝のミサイル協議が中断し、朝鮮問題4者会談の予備協議は、19日に事実上決裂した。いずれも、再開の兆しはない。
 4者会談は、韓国、北朝鮮、米国と中国による朝鮮問題についての協議である。この4カ国が、同じテーブルにつくのは朝鮮戦争の休戦協定締結後初めてであった。
 会談では、朝鮮休戦協定を平和協定に変える問題など、恒久的な平和体制作りが話し合われるはずだった。朝鮮半島は、1953年以来休戦状態にあるが、なお平和協定が結ばれず対立と軍事緊張が続く。
 北朝鮮はこれまで、休戦協定を平和協定や新しい平和システムに変える提案を行ってきた。しかし、北朝鮮の目的が米国との交渉にしぼられていたため、韓国側が米朝2国間での交渉に反対を表明してきた。
 北朝鮮は、なお韓国の存在を公式には認めておらず、米朝2国間交渉にこだわった。このため4者の予備協議の前に米朝の準高官会談を行うことで、4者会談を米朝会談の一環と位置づけ、4者会談の準備協議に応じたわけだ。それだけに、予備協議はいつでも決裂する危険を抱えていた。
 さらに、北朝鮮は4者会談の本会談に応じる条件として、食糧支援、とくにコメの支援を要請した。また、在韓米軍の撤退問題を議題にするよう求めた。これに対し、米国と韓国は、食糧支援問題は4者本会談で話し合えるとして、事前の食糧支援約束に応じなかった。
 実は、予備協議決裂の背景にあったのは、ワシントンとソウル、それに平壌での強硬な対応を求める主張の高まりである。平壌では、軍部を中心に「譲歩し過ぎだ。何も成果がない」との外務省批判が広がっている。ワシントンでも、北朝鮮への食糧支援を先行させた国務省に、国防総省を中心に「弱腰だ」との批判が高まっていた。
 こうした環境の中で交渉に臨まざるを得なかった米朝の交渉代表にとって、譲歩できる余地は極めて少ない。それだけに、北朝鮮代表はコメ支援の要求を取り下げられなかった。一方、米代表の方も、これ以上の譲歩には踏み込めなかった。
 チャック・カートマン米代表は会談後「失望した。米側からは再び呼びかけない。米国では人道支援よりも、安全保障の優先度が高い」と、会談決裂を明らかにした。この発言には、米国の空気を北朝鮮に伝えようとする意向が込められている。
 一方、北朝鮮の金桂寛代表は「合意には達しなかったが、なお忍耐強く話し合いたい」と述べ、会談継続への意向を強調した。決裂にはしたくない意向を強く示したのだった。いずれにしろ、実務レベルでの接触は、継続される見通しだ。
 実務レベルの接触継続は、米朝の交渉が生み出した知恵である。本会談や交渉が決裂しても、対話の窓口を常に開けておくことで、妥協と打開の方向を見いだすやり方である。成果がなくとも続けるべきである。
 南北対話も中断され、日朝正常化交渉も再開されていない。北朝鮮は、外の世界との対話の窓口を閉じることなく、接触を継続してほしい。
 対話と継続こそが、成果を生み出すからだ。
 
 
 
 
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