日本財団 図書館


毎日新聞朝刊 1997年8月4日
社説 朝鮮半島 合意の確実な実行が大切
 
 朝鮮半島エネルギー開発機構(KEDO)は、朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)の軽水炉建設現場に現地事務所を先月28日、開設した。また、来週にも起工式が行われる。
 KEDOの事務所開設と起工式は、歴史的な出来事である。日米韓の外交官が初めて北朝鮮に長期駐在することになる。
 KEDOは、1994年10月21日の米朝合意で生まれた。北朝鮮が核施設を凍結・廃棄する代わり、2003年までに軽水炉による発電所2基を建設することになった。
 また、それが完成するまでの代替エネルギーとして毎年50万トンの重油が北朝鮮に供給される。この合意を実施する国際機関として、日米韓を中心にKEDOが作られた。
 米朝合意について、米国内では「核開発中止に代償を与えた」との批判もあった。しかし、米韓と北朝鮮がかつて戦い、殺し合い憎しみ合った関係であることを考えると、合意は信頼醸成への現実的な解決策であったと評価していいだろう。
 国際政治での信頼醸成措置は、米ソ冷戦の中で米国と欧州が作り出した知恵である。その手法が、冷戦終了後のアジアでそのまま使えるかどうかは、新たな課題ではある。
 しかし、朝鮮半島の分断が米ソ冷戦の影響を受けた事実を考えれば、信頼醸成を通じての平和の構築はなお効果あるやり方である。米朝の合意とKEDOによる約束の実行には大きな意味がある。
 もちろん、なお問題は残されている。米朝の合意は、本来は米国がすべての責任を負うのが原則である。しかし、米議会が軽水炉建設の資金拠出を認めないことから、資金は韓国と日本が負担することになった。
 米国は、重油供給の資金を拠出するというのが当初の約束であった。ところが、米議会がこの資金負担にも難色を示しているために、来年春からは重油供給がストップする恐れも出ている。米国は、これも日韓両国に捻出(ねんしゅつ)してもらいたいとしている。この肩代わりに簡単に応じるのは、問題であろう。
 最難問は、建設資金の見積もりがなお確定していないことである。これまでは総額50億ドルで、このうち約10億ドルを日本が負担するとみられていた。ところが、建設費は50億ドルをかなりオーバーしそうなのである。そうなると、日本の負担も増えるのだろうか。
 この資金負担に関連して「カネを出すのだから、日本企業にも発注すべきだ」との主張も出ている。しかし、日本は利益を求める態度をとるべきではない。積極的に受注競争に加われば、事故や問題のすべての責任を負わされる。その覚悟がなければ、手を出してはならない。
 外務省は、KEDOの現地事務所に派遣する要員の人選に苦慮している。1年前後の駐在さえ、希望する外交官がいないという。日本の外交官には、出世には関係のない人のいやがる所にも望んで行くという、気概と覇気がなくなったのだろうか。
 1、2カ月交代で若い外交官を派遣する案もあるという。それでは使い走りしかできないだろう。
 KEDOの事業は、不信と敵対の関係にあった北朝鮮と米韓が、信頼関係を築けるかどうかの歴史的な課題を担っている。北朝鮮もまた基本合意書に記された約束を誠実に守らなければならない。
 
 
 
 
※ この記事は、著者と発行元の許諾を得て転載したものです。著者と発行元に無断で複製、翻案、送信、頒布するなど、著者と発行元の著作権を侵害する一切の行為は禁止されています。








日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION