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延長保育
 母子家庭のA君の母親は、トラックの運転手をすることになりました。それまでは、大体5時頃から6時位までにはお迎えに来ていましたが、遠距離や他県まで、夕方は特に車の渋滞に巻き込まれ、どうしても7時を過ぎることが毎日のように続くようになってきたのです。「A君、お腹空いたね」。6時半頃には、軽いパンや牛乳程度のおやつを出すことにしました。
 その頃から勤務時間が長くなったり、飲食店に働くようになった方、出張のため遅くなる、学校の会議が長引く等々で、いつか7時前後に迎えにくる人が増えてきました。
 初めは、保育士も交替勤務をしていましたが、専任の必要性も当然と思えるようになり、一人は遅番専任の保育士としました。
 こうして、夕方6時半から7時までの延長保育が始まりました。また、長距離通勤の増加等により、朝の延長時間の要望も強く、朝7時から7時半も延長保育として設定しました。
 昼間大勢いた子どもたちが、夕方6時半近くになると人数も少なくなり、保育士も少なくなってきますので、必然的に保育室や保育内容も落ち着いた雰囲気に変えることも必要になってきます。本来なら、もっと部屋自身が畳でも敷いた茶の間風であれば申し分ないのですが、当園はもう平成元年、10年以上も前に建て替えたので、その当時は考えも及ばず、理想通りにはなりません。そこで現在、5時頃には子どもがいなくなる一時保育をしている部屋を使用することにしました。床には6帖位の絨毯を敷いて、多少落ち着いた雰囲気にします。
 この部屋は、テレビやビデオもありますので、家庭的な雰囲気も醸し出すことができます。しかし園の方針としては、テレビなどを長く見せることはしていません。好きな遊び、一人でゆっくりできること、モンテッソーリ教具や大工仕事の釘うち、パズルをしたり、本を読んであげたり、また一人で絵本を見て楽しんだりします。6時半過ぎには、延長保育クラスの子ども達が楽しみにしているおやつです。大きいクラスのお兄さんお姉さんが、給食室におやつを取りに行ったり、いろいろ準備をします。手洗いやおやつ配り等、保育士と一緒になってお世話するのが楽しみのようです。お菓子や、パン、牛乳、果物等、夕食に差しつかえのない程度ですが、少し目先を変えて、一つの大皿から一人ひとりの自分のお皿にとったり、一つのものを分け合う等、いつものおやつの時間と少し変えるようにしています。ホットケーキを保育士と一緒に作って分けるときなど、大きい子は、得意顔で楽しくて満足そうです。
 最近は1歳前後のお子さんが遅くなるので、その時には、もう一人職員に残ってもらうようにしています。早朝から来て、6時を過ぎる頃には、どうしても乳児クラスのお子さんは疲れがでるようです。うとうとしてきたり、多少機嫌もよくない姿がでてくるのも当然かもしれません。できれば、6時頃までにはお迎えして頂ければと、子どもの姿、立場を考えると、ついそんな思いがしてきます。このことについては、子どもの福祉のはずなのに、また、母親自身も早くお迎えにきたいと思っているだろうに、と乳児の主任とも話しています。産休、育休中は良いのですが、職場復帰後1年くらいは勤務時間を1時間位短くしてあげたい。女性として男性と同じ立場で働くことや、乳児から保育所で保育することは決して悪くはないのですが、せめて、1歳から2歳位までは、6時頃には迎えに来られる勤務体制になればと、声の出せない子どもに代ってお願いしたいと思います。
 現在、本園で実施している延長保育では、朝、夕方とも、5〜10名前後で、保育士2名で行っていますが、1歳児の延長希望がある場合には、保育士1名を増員しています。延長保育児の親は、小中学校の教諭、看護婦、企業、あるいは接客業務、その他、出張や仕事の残業等、多岐にわたっています。人数等は毎日把握して、緊急時には保育士を増員できる体制にしています。
 延長保育の現場で気になることは、特に夕刻子ども達に体力的にも精神的にも疲労感がみられることがあり、保育士の充分な留意がないと事故やケガを招く可能性があります。現在までには、特別な大きな事故はおきていませんが、今後も安全な、少しでも心の安らぐ保育を心がけていきたいと思います。
 このように限られた環境のなかで、いかに良い保育を心がけるか、大きな課題を抱えて延長保育が実施されています。








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