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一時保育
 地域を含めた子育て支援を考える時、保育を必要としている子どもを預かるのが保育所であり、保護者が預けたいと思った時が必要な時という思いになれた時、一時保育への考え方も変化してくることと思います。
 核家族の中で、思い描いていた夢と現実とのギャップにこんなはずではなかった、と思いどおりにいかない育児に不安を覚え、実家も遠いために相談相手もままならず、ただひたすら家の中で子どもと接する若い母親。唯一の相談相手であり、味方でもあるはずの父親も仕事で疲れていたり、おとなになりきれず母性や父性本能が十分に育っていないうちに子どもが産まれ、子どもがかわいい、子育てが楽しいという思いよりも、社会から取り残されていく、自由がなくなってしまうという思いが強くなっている母親が増えてきているように思われます。
 一時保育は、今まで就労の他には、出産、家族の入院や介護、通学や引っ越し、家庭における急なアクシデントがあった時等に利用される場合が多かったのですが、近年マスコミから流れてくる虐待のニュースに母親も過敏になり、自分も虐待してしまうのではないかと育児不安に陥ったり、リフレッシュが認められるのであれば、子どもから離れて少し自由な時間を持ちたい、という母親の利用が着実に増えてきています。
 知らない場所や人の中に何が何だか分からないまま連れてこられ、母親と分かれた子どもは、当然大きな不安をさまざまな形で表現してきます。大きな声で泣き続けたり、飲食も排泄も断固拒否し、持参したカバンや衣服を握り締め、離そうとしなかったり等ちいさな身体と心でせいいっぱいの抵抗をしています。大人にとって利便性の良いところが、子どもにとってもよい場とは限りません。こんなに辛い思いをさせてまで、預けなければならないのかと担当保育士は、胸の痛む思いをすることもあります。そんな子どもたちの心に寄り添い、保育士は味方であり、ここは安心できる場であることを伝えていくことにより、少しずつ笑顔が見られるようになり、遊びに目を向けることができるようになります。受け入れの時にどこまで子どもの心に寄り添い、受け入れてあげられるかが、子どもにとって楽しい場になるかどうかの岐路になることと思います。
 平成4年頃、少子化問題が深刻に論議され、子育てをサポートしていく立場にある保育園として、地域で何が必要とされ、保育園でなにができるのかを考えていたところ、狭山市より、一時保育の要請を受けることになりました。園としても、週40時間体制を検討していたところでもあり、この事業を行うにあたって1.5人の職員の加配はとても魅力的で、園長と全職員で話し合いを重ね、平成5年4月よりスタートしました。登録・月々の予約受付共に市役所の児童福祉課が行い、FAXで情報が送られてくるという形態でした。
 平成5年度は、初めての試みということもあり各年齢のクラスに保育を委ねました。慣れないところで不安になり、落ち着かず泣いていることが多いため、クラスの子どもたちまでが動揺して不安定な日々が続きました。担当保育士としても、在籍以外の子どもたちをクラスにお願いすることになるため、職員間での理解、協力体制がとられていても心苦しく、担任でありながら保護者に対して、他のクラスに入った子どもの一日の様子を自ら伝えることができず、切ない思いを抱えていました。次第に利用人数も増え、これ以上クラスに入れるのはむずかしい状況となりました。
 平成6年度より、専用の保育室を設け、ふたりの担当保育士が保育にあたることとなり、ふたりでの対応が困難な時は、他のクラスより、手伝いに入るという形に切り替えました。利用する子どもたちにとっても、少人数で家庭的な雰囲気の中で安心してゆっくり楽しい時が過ごせるようになりました。保護者は、朝夕の送迎でおなじ一時保育を利用している親同士という共通意識から親しくなり、おしゃべりを楽しんだり育児の悩みを保育士に相談したりと、おしゃべりサロン的な要素も兼ね備えたクラスとなりました。
 平成8年度の4年目には、クラス名がつけられ、通常保育の中に溶け込むようになりました。3歳児の部屋との境のドアが開閉可能なため、いつでも行き来ができ、共に遊び子ども同士のコミュニケーションもとられ、園児も保育士も自然な形で一時保育の子どもたちを受けとめ、担当保育士を中心に園全体で見守る体制が、根付いてきました。特別なPRなど行わなかったのですが、利用者の口コミや紹介で広がり、週2〜3回利用の固定者が毎月のように増えてきているため、定期的に利用していた人たちが利用できなくなってきたり、月々の予約受付のために早朝から市役所の玄関に並んだり等厳しい状況になり、この年公立の1園が取り組み、平成9・10年度より法人立の2園がそれぞれ取り組みを始めました。
 平成12年度より自主事業となり、登録・予約受付等の業務が保育園に委ねられました。年度を超えて、定期的に利用する人たちのために平成13年度より年間予約を受けるようになり利用者からも「予約がとれなかったらどうしよう……という不安もなくなり、安心して仕事ができます」と感謝されています。一時保育もすっかり定着し、通常保育の延長と考えて親子遠足、おたんじょうび会、運動会、クリスマス会等の行事に参加しています。
 2〜3年前までは、利用希望者が多く、予約受付の日には、朝早くから列ができたり、キャンセル待ちの状態もしばしばでしたが、規制緩和により、定員の柔軟化が認められたため、各保育所への入所児童数が増え、一時は、利用者も減少したものの、経済状態の悪化により、母親の就労が増えたり、リフレッシュの利用の件数が増えたりし、再び日にちや曜日によっては、希望に添えない日も出てきています。
 一時保育は、相談事業的な要素も強く、育児の悩みから母親自身に至ることまで、家庭的でくつろいだ雰囲気の中で話しやすいということもあるのか自然なやり取りの中で相談活動が行われています。そのため、子どももおとなもまるごと受けいれていく体制をとる必要があり、経験豊富な母性的な寛容さを備えた力量のある保育士が担当しています。在園児と同様、連絡ノートで日中のようすを知らせたり、家庭でのようす等を話し合いながら、共に成長を見守り、保護者とのコミュニケーション作りに努めています。
 職員は以前にも増して、一時保育の子どもたちと在園児の区別をしなくなり、ひとつのクラスとして、受け止めるようになりました。担任は、なるべく子どもたちの情報を他の職員に伝達し、理解を求める努力をしています。開園当初から長時間保育を実施しているため、職員の勤務は、ローテーションを組んで朝夕の合同保育に対応してきました。そのような体制の過程で職員間のコミュニケーションが取れているためか、問題が起きてもスムーズに解決できたのではないかと思います。
 一時保育への関心や要求が高まっていく中で、保育所の果たす役割はますます大きくなり、これに対応する職員の資質、保育力量が問われてきます。
 保育を必要とする子どもたちの年齢範囲も家庭環境もさまざまであり、緊急に保育を必要とされる場合もあることを考えると、保育士と保護者の子育てを通しての共通理解や信頼関係も簡単には得られないことでしょう。そのためにも、私たち保育士は、常に自らを研鑽し、自己の資質向上に努める努力をしながら、保護者に寄り添い、手つなぎの輪をひろげていきたいと思います。
 子どもの成長と発達についての視点をわすれないようにしながら……。
 特別保育とされている各事業も保育の多様化の中で、園内に浸透するようになり、職員の意識の中では、通常保育の延長として考えられるようになりました。必要としている人がいる、必要とされているという思いから取り組んでいる事柄は、当園においては、特別なことではなくなってきているようです。特別なことをしているという思いが強いと、保護者とは同じ目線で物事を考えることはできず、対等な立場が保てないため、子どもたちの思いや言葉を代弁することもできなくなってしまいます。保育という仕事は、すぐには答えはでてきません。子どもたちの今、そして将来を思い、今行っている支援が10年後、20年後になった時、その答えがでてくるのではないかと思われます。
 これからの課題として、延長保育においては年々増えてきている乳児の利用に対する対応と共に卒園後の放課後児童対策についても、考えていく必要もでてくることでしょう。公設中心に行われている学童保育の現状は、午後6時までの保育が大半となっており、子どもたちの体力や小学校での緊張の継続等考慮するとこれが限度なのだろうと思われるものの、働く家庭にとっては時間的配慮を必要としています。
 一時保育においては、利用希望の集中する曜日等によりキャンセル待ちがおこることが多く、実施保育所各園及びファミリーサポートとの連携を深め、情報の交換を行うことは、希望がかなわず利用のままならない人たちに対してのサービスヘとつながることでしょう。
 育児不安を抱えていたり、育児に負担を感じている在宅の家庭への支援を考えたとき、今まで口コミにより対応してきた当園も、もっと広く積極的に情報の提供を行うことにより、保育園がもっと身近な存在となれたらいいなと思います。
 保育の世界において、保育に携わる職員が心にゆとりを持ち、保育にあたることが、よい支援を提供できることにつながり、職員が健康であり、笑顔で過ごすことにより、笑顔の輪も広がっていきます。保育所に寄せられる期待が益々大きくなるこれからの時代は、家庭支援と同様に携わる人々への支援や体制を整えていく必要性も重視されてくることでしょう。
一時保育事業利用状況
*非定型
  平成5年度 6年度 7年度 8年度 9年度 10年度 11年度 12年度
登録数 166人 206 284 334 191 285 278 207
辞退数 41 22 47 38 16 24 13 14
利用数 125 184 267 296 175 261 265 193
利用回数 0歳 232 38 302 274 101 107 57 1
1歳 493 434 424 646 341 601 434 443
2歳 109 560 568 552 489 864 703 561
3歳 35 40 264 12 24 6 430 313
4歳 35 0 23 7 1 0 65 3
5歳 6 0 9 0 64 0 0 0
合 計 910人 1072 1590 1491 1020 1575 1689 1321
 
*緊急
 
  平成5年度 6年度 7年度 8年度 9年度 10年度 11年度 12年度
登録数 24人 19 46 31 6 2 14 9
利用回数 0歳 3 36 42 7 0 0 1 0
1歳 15 20 58 28 5 10 29 24
2歳 15 2 39 74 6 1 57 77
3歳 16 8 22 10 1 0 36 0
4歳 0 0 8 9 0 0 0 0
5歳 5 0 0 16 0 0 0 0
合 計 54人 66 169 144 12 11 123 101
 
*利用理由
 
  平成5年度 6年度 7年度 8年度 9年度 10年度 11年度 12年度
就 労 22人 45 51 34 22 28 44 53
就学・付添 2 0 4 1 2 1 3 8
入院・通院 3 2 10 13 7 9 4 12
看護・介護 8 5 6 6 2 1 4 7
出産・検診 5 2 5 6 3 2 12 11
冠婚葬祭 2 1 0 2 0 0 0 3
育児不安 0 0 0 0 1 1 3 3
その他 5 5 2 5 6 3 8 9
その他の内訳:引っ越し、小学校の説明会、卒業式、入学式、職安の面接等 








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