日本財団 図書館


延長保育
 保護者にとって仕事と子育ての両立は、並大抵でないことと誰しもが思います。早朝に自宅から子どもを保育園に預け、出勤時間に遅刻しないよう勤務先に急ぎます。また、労働時間は勤め先により一定しているとは限りません。仕事を終え、子どもを保育園に迎えに来る時間も異なり、保育を受ける時間は親の希望でまちまちです。このような実態は都市部、郡部において多少異なっていますが、平常時間8:30〜16:30以内で子どもを送迎できる保護者はごくごく少ないことです。延長保育サービスは、入園児親子の殆どが希望しているのではないかと思います。
 さて、国の延長保育制度は平常時間内に児童を送迎できない保護者のために、保育時間を延長して保育園が仕事と子育ての両立支援策として実践しているものです。当保育園での延長保育は、昭和55年4月開園以来、保護者の送迎時間を考慮し、開園は7時40分、閉園は17時40分と保護者の申し出により決めており、職業的に、また通勤距離の関係から、定数(入所児数)の3分の2以上が8時間以上保育を受けています。国の延長保育制度は、当園では平成3年度より該当になりました。保育時間も、11時間以上の保護者の延長保育申し出も多くなりました。現在は7:00〜19:10まで延長保育を実施しています。保護者の望む保育時間の一方で、私達保育者は、子ども達の延長保育時間内における心身への影響に対する配慮、夕方空腹時の補食や保育内容、保育者の早番遅番、勤務内容の心掛け等、子ども達が長時間保育園で楽しく安全に一日を過ごし、保護者と共に降園することを願いながら日々保育しているところです。
 以下、延長保育の実態を少し並べていきたいと思います。
 実施状況として、実績数としては、延長時間に対し保護者負担金0円サービスの時期と、回数に応じ負担金制度実施後とでは差が大きく、経済的に考え、送迎を工夫し、最低限度にとどめる保護者が多くなっています(別表2)。
 利用保護者の事情は、わが子のために家庭内の協力、父母の送迎分担の調整によってある程度改善できることもあるようです。
 子どもの年齢が低ければ低いほど、延長保育は子どもの心身に及ぼす影響が見受けられます。
 延長保育の職員体制として、延長保育当番の勤務割、専従パート保育士の雇用、延長保育希望児童数の多い日の時間外勤務での対応等、職員のやりくり等は園長が責任ある立場で職員としっかりと連携を図りながらしています。
 保育士は、延長保育担当が3日間続きの輪番制であることから、担当クラス以外の子どもも保育するために、延長保育の名簿を作成し、子どもの性格、日々の過ごし方、行動の特徴等を個別に担当保育士としてマニュアルにまとめています。延長保育時間帯は子どもの疲れが出てくることから、落ち着いて安心して時間を過ごさせるということがとても大切なことですから、その時その場の判断力を磨くことが必要です。
 実施上の課題は前掲のとおりですが、急変した子どもの対応や、お迎えの代行者の連絡の徹底、子どもは保護者のお迎えを待っているという意識を高めさせながら、お迎え時間の忘れ、夫婦の送迎当番の不徹底による思わぬ出来事で、子どもも保育者も待ちぼうけしない関係を保ちたいと念願しています。
 
別表2
過去2年間の延長保育実績表
1.利用児童数(延人数)
z0071_01.jpg
 
2.利用の理由
z0071_02.jpg
 
3.母親の職業
z0072_01.jpg
 
4.延長保育料納入額(月額)
z0072_02.jpg
 
(1)延長保育の実際
[1]通常保育からの切り替え
 子ども達にとって、午睡後すぐおやつを食べ、あっという間に“さよなら”の時間になってしまうため、友達とゆっくり遊べる夕方の時間を楽しみにしている子どもも多く見られます。各クラスの担任は、子ども達の落ち着きを把握したところで延長保育室に移動します。下記のことは、各クラスの担任から延長保育担当者への引き継ぎ事項としています。
・当日の延長保育児の名前と人数について
・突然の延長保育利用児の有無について
・保護者の迎えに関わる変更等について
・体調のすぐれない子どもについて
・気にかかる子どもについて
 
[2]延長補食の配慮
 延長補食については、家庭の事情によって必要性が異なり、保護者によっては「夕食が食べられなくなる」という意見もあれば、「とてもありがたい」「たくさん食べさせてほしい」など様々ですが、保育園としては保護者の帰りを待つ間、精神的不安をやわらげることを目的としています。従って補食として与えるのではなく、おやつという意識で与えています。
 
[3]延長保育中の留意点
 子ども、特に3歳以上児は通常保育と違った遅組の友達という感覚で遊びたい気持ちがありますが、3歳未満児、なかでも0、1歳児は担任以外の保育者が担当になった時には、精神的に不安定になる子どももいます。それに体の疲れ、怪我の発生率が高くなる時間帯であることを念願において、下記の点に配慮し保育を進めています。
・年齢により活動が異なるため、危険を防止することから3歳以上児、3歳未満児を各々の保育室で、ある一定時間保育を行います。
・更に3歳未満児については、0歳のみサークルを活用し、同室ではありますが別グループ制をとって子どもの安心感を保つようにし、安全確保に心がけています。
・その日の利用人数や子どもの状態、情緒の安定度を確かめながら保育を補助する保育者の増員を図ります。特に落ち着かない子どもや延長保育を初めて経験する子どもには、担任が補助保育にあたります。
 
[4]降園時の子どもの様子
 迎えに来た父母の姿を見つけ、挨拶もそこそこに駆け寄って行く子ども、友達との遊びや保育中に視聴したテレビやビデオが楽しく、迎えにきた父母を待たせたりという姿が見られますが、そんな姿も迎えに来てくれた父母への安心感からの甘えの行動の一つと受け止めています。しかし、父母の迎えがうれしいのに反発したり、暴れたりして帰ろうとしない子どもも少しですが見受けられます。それだけに子どもが頑張って父母の帰りを待っていたことを受け止め、保護者も子どもも気持ちが落ち着いたところで挨拶し、明日への保育につなげられるような降園をさせます。様々な姿がありますが、本当に帰りたくない子どもは一人もおりません。子どもは、一刻も早い父母の迎えを待っています。
 
[5]子どもに与える心理的影響
 子どもが多いうちは、友達との関わりのなかで遊びを楽しんでいるが、時間が経つにつれ仲良く遊んでいる友達が一人、二人と降園すると、活動も小さくなり、表情がかたくなります。子どもも心細さから、特に3歳未満児においては、保護者が本当に迎えに来てくれるかを確かめる場面が多くなります。また、0歳児においては、人見知りの時期と重なっている時は、担任以外の保育者や友達の保護者にも不安感を示します。どの子どもも、少しでも早く迎えにきてほしいという気持ちを持っていることから、お互いに頼りあい、なぐさめあっているところも見受けられます。延長保育において、マイナス面だけではなく、自分の気持ちをコントロールしたり、相手の心の痛みをわかってやれる気持ちが育つことはとても大切なことなのだと思います。
 
(2)延長保育の変遷
[1]親の意識の変化
 ほとんどの保護者は、勤務終了後すぐに迎えに来ますが、中には買い物や医者・美容室等、私的な用事で迎えが遅くなることもあります。保護者にしてみれば延長保育料を払っているのだから、という気持ちがあるのではないかとも思われます。また、緊急連絡がある場合、勤務先に連絡がつかず保護者の携帯電話に連絡を入れても、電源が切られていたり留守電になっていたりと連絡がとれなく、緊急の役目を果たしません。結局は、私的な用事であったということがわかったりと、いろいろのことがあります。後で保護者に保育園で待っている子どもの気持ちや緊急事態を話しますと、保護者もその時は充分に理解できたことを表すものですが、同じことを何度も繰り返したりする時もあったりと、なかなか難しい場合もありますが、保護者の心身のストレス状態を保育園も保育者も一旦は受容し、そこから親としての責任感を認識して約束を守ってもらうということもやらねばなりません。子どものみならず保護者への心身のケアを含めての延長保育という時もあります。
 
[2]子ども達の変化
 最近特に早朝保育希望が多く、早朝保育児に見られる傾向として、起きてすぐ登園し、朝食を食べてこない子どもが増えています。従って登園時、親との離れぎわに泣いたり、後追いをしたりといった現象が見られます。また、保育中ボーッとしていて保育に入れないこともあったり、24時間の子どもの生活を把握することの大切さを実感しています。
 保護者には日頃から生活リズム、基本的な生活習慣の大切さを話していますが、実際に実行するのをなかなか見ることができません。しかし、子どもを守らなければならない保育園の立場として午前寝、また3歳以上児でも10時のおやつを提供したりと、その子どもそれぞれに対応しています。
 
(3)延長保育の留意事項
 注意力も低下し、心の安定度に欠けやすい時間帯でもありますので、落ち着いてくつろげることとして絵本の読み聞かせ・絵描き・折り紙遊び・ブロック等を中心として、日々マンネリ化しない保育内容に心がけています。その時その場での子どもの状況判断、延長保育担当者同士の連携をしっかりしてあたらなければなりません。延長保育は、翌日につながる保育のひとこまですので、保育記録も子どもの様子や降園時間、その時の保護者からの伝達事項等、延長保育日誌に記入しています。








日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION