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一時保育
 
(1)一時保育を始めた動機
 保育園周辺の地域から、また市民が集まる会合等で、「子どもは保育所に入所できる要件に該当していないが、2世代・3世代同居により、両親は働きに出て祖父母が孫育てに終日過ごしているが、病気通院や冠婚葬祭に出席する時は親類や知人に孫の保育を依頼してもいい顔をしてくれない。母親が勤務先を休まねばならない」、また「母が第二子、第三子を出産入院する時、上の子を1週間位保育園で見てくれないか」「家庭保育をしていて毎月末3日程度医療事務の内職をしているが、子どもがそばにいると仕事にならないので、保育所を利用したい」等々。保育所に入所している児童の両親は日中安心して勤めができるが、家庭において保育中の子どもは何か用向き・都合ができると子どもの保育はたらい回し、といった声を時々耳にしていました。そこで当園では、子を持つ市民の声にもっと子育てに役立つことをしようと、一時保育に挑戦すべく園内で話し合いをしました。前年の平成2年度から実施している県外の保育園を、園長・主任保母を中心に見学して指導を受け、要領や始めるに当たっての行政規約の収集、受け入れ児童についての注意すべき事項、保護者との連携のあり方等、種々研修を重ね職員に周知させました。当時、山形市行政の動きは消極的でしたが、山形県では一時保育を山形市民間立保育園にという方針もあったようでした。そして当園が平成3年4月1日、山形県内一時保育第1号としてスタートした時は、市の広報や地方のマスコミが、一時保育の内容や当園が開始した様子を直接訪問しての取材があり、利用している子ども・保護者からの感想、園長・担任保母からの受け入れについての様子がつぶさにまとめられ、県内初めての取り組みとしてテレビや新聞で報道されました。以来平成13年4月、一時保育を実施してから12年目を迎え、スタートした平成3年度当時とは利用児童、保護者の利用する理由も様変わりし、時代の変遷・景気の動向にも敏感に影響し今日に至っています。
 
(2)実施状況
〈利用者の事情・利用理由の変化・親の意識の変化〉
 一時保育を開始した頃は、子どもや保育園を取り巻く環境も都市化が進む中にもまだまだ三世代同居家族が多く、祖父母が母親に代わって孫の家庭保育をしていました。従って利用者、また利用理由も祖父母の病院や健康診断等への通い、冠婚葬祭、季節的に多忙な仕事等が主たる理由でしたが、利用の理由も時代と共に変化し、親の事情によるものが多くなりました。同居していても祖父母が就労していることや、核家族化によっての育児知識の伝承や子育て体験の減少により、母親の育児不安のための治療通院、また研修サークル・ボランティア活動、習いごと、家族の老人介護や看病、そしてこの頃は、子どもの集団生活の体験希望、祖父母の孫育てからの解放のため、更には、長引く不況のため家庭経済の圧迫により母親のパート勤務等、利用理由も多様化している現状です。また、利用時間帯も通常時間では間に合わず、夕方6時頃までの希望も多くなっているというのも特徴的なものとして挙げられます。
 保護者も「非定型」を長く利用していると、通常児と同様にしてほしいという望みが高まることで、母親が正職に就いて子どもを保育園に入園させたいと思うことや、降園の際知り合った保護者の仲間や通常児の保護者との関わりの中で、子育てに自信や安心感を得たり様々です。「非定型」を利用の保護者から特に、園行事や父母の会行事に共に参加したいという意向もあることから、希望する保護者には父母の会会員としての加入や園の開催する行事に加わってもらうようにしています。
 
〈子ども達の反応等〉
 初めて親から離れるということは、子どもにとって大変不安なことです。床に大の字になって暴れる子どももいますし、また母親の後を追って泣き続ける場合もあり、目が離せません。“抱っこ”や“おんぶ”をしても泣きやまず、この子は「一日泣いているのかな……」と思われることも度々ですが、知らない場で初めて声をかけてくれた人、“抱っこ”や“おんぶ”をしてくれた人には少なからず安心感を持つ様子が見られ、泣きながらも落ち着き始め、その日遊んで過ごせる子どももあります。しかし、1歳6か月〜2歳児は自我の芽生えの時期であり、また状況判断がわかるだけに専用の保育室に入ることに抵抗を示したり、拒否反応を示すこともよくあります。更に3歳以上児で初めに泣いて母親と離れるのを嫌がると、慣れるまでに時間がかかってしまうというケースもなかにはあります。
 みんなと一緒に過ごせない子ども、食事ができない子ども、午睡のできない子ども等々、一時保育の場合は、こういうことがごく普通であると思います。無理せず、その子どもに応じて毎回同じ保育者が関わることで、その保育者が側にいれば落ち着いて過ごせるようになったりします。また、以前来た時に一緒に遊んだ友達がいたりすることで、少しずつ心を開いていく様子もみられます。親が不安感を持っているうちは、子どももなかなか安心できないようです。しかし、利用回数を重ねていくうちに少しずつ環境に慣れ、登園できるようになってきます。
 一時保育は、異年齢との関わりが多いことから、大きい子どもは自然のうちに小さい子どもの面倒をみたり、小さい子どもは大きい子を慕っている様子がみられます。一人での遊びしかできなかった子どもも、友達との関わりで名前を呼び合ったり、仲良く遊べるようになり、いつの間にか食事も午睡もできるようになって、担当保育者も安心感を持ち、心を開いた子どもの成長に喜びを感じている様子です。
 
(3)保護者・地域社会の評価
 利用している保護者あるいは家族にとって、困った時、急用がでた場合、緊急なことが発生した時、気軽にいつでもすぐ対応してくれる専門的な機関があることに心強さと安心感を持っている様子が伺えます。子育ての悩みごとの相談をはじめ、保護者自身がストレスを発散したいというケースも多く、保育者に話を聞いてもらい、アドバイスを受け気持ちの安定を取り戻したり、心のケアを求めていることもあり、いろいろです。子どもの成長と共に保護者の心も行動範囲も広がっていく傾向が見られます。また、今回一回限りの利用のつもりでいた保護者も、子どもの園での様子を保育者から話を聞いたり連絡帳を読んで、また利用し子どもに対し自信を得て大丈夫だという思いを持つと、利用回数が増えていきます。そして、家庭での子どもの変化していく様子に成長の喜びを感じると、積極的に保護者の方から話すようになってきます。一方、地域社会からは、増加する乳幼児の虐待の問題、あるいは育児不安・育児ノイローゼ等の防止、解消の役割として保育園が重要な位置づけになっている現状です。
 
(4)職員の体制・協力
 最近の一時保育を利用する子どもの年齢も低年齢化の傾向が見られ、1歳前半、特に0歳児に近い子どもが多く、また「非定型」が減少し、緊急保育児が増加しています。従って、利用する年齢や人数の把握がしにくいといったことが生じています。更に利用時間も早朝から夕方遅くまでの時間帯の希望も多く、利用する保護者に変化が見られます。
 一時保育は特に異年齢児集団であることから、担任の保育者の保育経験年数・保育力や適性・ペアの組み合わせへの配慮等がキーポイントです。緊急児の場合は慣れていないことから、1対1での保育が必要ですし、担任保育者のみならずクラス担任、フリー保育士の応援を求めることから、全職員の理解と協力が基本でありポイントとなります。通常保育と異なって、一時保育は臨機応変な人的配置をしなくてはならないことから、職員の連携を密にしておくこともまた大切だと思います。
 日頃から通常保育の話題と共に一時保育のことにも心を配り、また園行事を共に体験していくことで、自然な形で受け入れられるようになっていきます。また、電話での申し込み・来園しての申し込み・受付手続き等、いつでも誰でもが対応できるよう、全職員が熟知しておかなければならないと思います。
 この事業も12年目になりますが、経験のある保育者は周知しているものの、新人の保育者は様々な場面に出会った時、戸惑いも多いことから特別な時間を作って勉強することも必要と思います。保育園全体で取り組む姿勢で実施している一時保育の保育室は専用ですが、いろいろの意味で通常保育児との交流が必要です。交流によって生まれる保育の方法や保育内容も、お互いに参考になるものが多くあります。
 
(5)担当保育士の反応・意見
・ 日々違う年齢、また初めて登園する子ども達の対応には難しい面が多いが、張り合いを感じることができます。
・ 慣れるまでに大変だった子どもが笑顔で遊ぶ姿を見ると、救われるような気持ちになります。
・ 人一倍手のかかった子どもが利用期間を終え、保護者から利用して良かったという話を聞き、担当保育者の役割が果たせたことへの喜びを感じることができ、保育者自身の自信につながります。
・ 一時保育を利用し、いろいろの体験を重ねた子どもが通常保育への入所申請につながることもあり、保育を認めてもらったことへの満足感を持つことができます。
 
〈意見・反省〉
・ 通常保育とは異なり、子ども・保護者の気持ちをくみ取ることが難しいと感じています。
 また、反省点として、子どもが慣れるのに時間がかかりそうだと、結局保護者が預けることをあきらめてしまう場合があったり、もっと上手に関わることができなかったかと思う時もあります。以上、担当保育者の日頃の声をまとめてみました。
 
(6)実施上の課題
[1]利用できる期間の「延長」を望む声が多くなったこと(現行12日→延長後20日)
 家庭保育をしている家族の中で急病・入院により緊急保育連続12日以上必要とするケース、また職業訓練参加により認定証を受けるため3週間程度かかるケース等、日常生活を守るため利用する保護者の事情も深刻になっています。
 
[2]職員配置の増員が必要であり、費用負担の増額を望みます。
 利用する児童が低年齢児(1歳、2歳、0歳の順)が断然に多い。しかも初めて利用する児童が多く、保育者の手のかかることは目に見えることです。通常保育に準じ、実績を踏まえ費用の負担増を望むところです。
 
[3]一時保育・延長保育等、自主運営事業に関し、国そして県・市が主催する研修会の実施を望みます。
 一時・延長保育について、行政・保育団体が主催し研修会を行っているものは皆無です。実施園の促進を図る上でも、自主運営がどのように展開されているのか、加えて実施園におけるメリット・デメリット等についての意見交換、現場の交流を図る上でも、是非研修会の実施を希望するところです。
 
[4]他市町村に住民登録している児童の受け入れについて
 近隣市町村において、一時保育について実施していない所は、まだまだ多いことがわかります。時々、「利用できませんか」との問い合わせがあります。中には大変困っている場合の電話もあります。今後の自主運営の目玉として緊急的な理由等、実施園の園長の判断で利用希望に応じ受け入れすべきと思いますが、どうでしょうか。
 
[5]保育中に発生した“けが”等、園側の責任に帰するものには日本学校健康センターにおける「災害共済」の加入を推進して下さい。
 現在、通常保育児に対しては、公的災害共済制度に加入しているところです。今、規制緩和が種々進められている時、一時保育中の“けが”もないとも限りません。通常保育の子どもとの遊戯中に発生する例も見受けますので、共済制度における柔軟な対処をお願いしたいところです。
 
(7)保育の実際
○受け入れ方(一般入所と異なる点、配慮していること)
 通常保育のように毎日登園するわけではないので、保護者は自分の子どもが初めての集団で、一日どのように過ごせるか、不安が大きいと思われます。そのため、申請時には保育の実態を説明し、一時保育を受けている子どもの様子を見学してもらったり、いろいろなエピソード等を話し、また保護者がどんなことに不安を感じているか、じっくり聞いて受け入れ体制を整えます。
 
○保育体制
 緊急児、非定型児、また年齢を考慮しながらグループ編成をし、保育を進めます。特に非定型児で通常保育の同年齢のクラスの子ども達と共に過ごせる子どもは仲間に加え、個々のケースに応じた保育が必要になります。環境面でも安全性を一番に考え、保育室は子どもがくつろげ、好きな遊びがいつでもできるように置き場所を考えたり、怪我や事故を未然に防ぐよう保育者が常に目配り・気配りをしながら危険物の排除をしています。
 
○情緒を安定させるための配慮等
 一時保育児は、通常保育児に増してできるだけ家庭に近い環境を設定することに心掛け、子どもの気持ちを最優先し、まるごと受けとめてやることだと思います。ですから、おやつや昼食、午睡の時間もそれぞれの家庭において異なることから、その子ども、その子どもに応じた関わり方が大切と思います。非定型児あるいは何度も利用している緊急児も、自然のうちに生活リズムも整っていく様子が見受けられます。また、泣いている子どもと他の子どもを同室にしておくと、泣かない子どもへも影響することから“抱っこ”や“おんぶ”はもちろんのこと、別室での個別保育、あるいは園庭・園外に散歩に出かけたりしながら落ち着きをとりもどしています。また、玩具やタオル、絵本等、何かを持っていることで落ち着いていることができるなら、家庭で愛用しているものを持参してもらったり、保育園でも子どもの好みを研究したりする等の配慮も一つの方法だと思います。
 
(8)一時保育の変遷
 当園が一時保育を開始した平成3年当時は、県内でも唯一の実施園であったことから、市広報への掲載、マスコミが来園しての取材や報道が次々とありました。この反響が大きく、家庭保育をしている母親・祖父母からの問い合わせや、保育園を訪問しての一時保育の内容についての確認等、わが子を一時的でも集団生活しているお友達との遊びを経験させたいとの家庭保育の母親たちの思いでした。
 1週間の中で3日間パート労働に出かけ収入を得ながら、子どもたちに成長体験をさせたいとのケースもありました。また、転勤をしてきて知人や身内のいない方々が一時保育を利用し、保育園で知り合い友達ができたり、母親自身のリフレッシュ等、一時保育で母親自身も子どもと体験できることが多いという口コミが次第に広がり、利用する園児が増加していきました。
 このようにして、一時保育利用について国が示した事業内容(1)非定型保育、(2)緊急保育、(3)育児リフレッシュ支援、(4)小学校低学年児童の受け入れを当初より実施してまいりました。利用状況等は別表1のとおりです。
 これらの数字は、県内においては利用児童数が一番多いとされています。たぶん全国でも高い水準と推測されます。利用児童数が他園に比し多く、増加している傾向として考えられることは、一時保育開始12年目を迎えた実践の経験と一時保育担当保育士も多いということではないかと思います。これからも職員間の連携、受け入れ児童と保護者へ細やかな対応をして、子どもの家庭に更なる安心感と信頼感を持って利用してもらえるように努力しているところです。また、災害事故防止策として予告せずしての通常保育児と共に避難訓練、一時保育受付時において子どもの成長状況の聞き取り、送迎者の確認の徹底、緊急保育申込の保護者に対しては、場合によっては身分証明書の提示、公的機関への問い合わせをしたこともありました。
 
〈保育記録〉
 保育記録としては、毎日の非定型・緊急日誌、月毎に収納台帳・児童名簿・保育日調べ・保育料一覧・集計表を作成します。一時保育もいつ誰が受け持ってもよいように、また保護者からの質問にも答えられるようにしておくためにも記録は大事です。
 
〈環境〉
 保育室は清潔に保ち、子ども達が楽しく過ごせるように設定することです。玩具の消毒をはじめ、日常よく遊ぶ遊具への定期的な点検をして安全を確認することも必要です。
 
別表1
過去3年間の一時保育実績表
1.利用児童数(延人数)
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2.利用の理由
[1]非定型的保育
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[2]緊急保育
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