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(3)一時保育
 一時保育は、平成7年の4月1日から始まりました。同じ法人が設置する若葉保育園の事業を引き継ぐ形で、国が示す実施要綱に従い、花巻市をとおして一時保育を受け入れる入所方法でした。保護者が直接保育園に申し込む形のいわゆる自主事業になったのは、平成10年の4月からです。それに伴い保育園の「一時保育事業取り扱い規程」を作りました。一貫した決まりの基に間違いのない対応を…というのが法人の意図です。受け入れ対象児童の定義、保育できる児童数、入園手続き、保護者が提出又は提示すべき証明書等(身元を明らかにできるもの、健康保険証、母子手帳、運転免許証等)、これは、保護者との十分な信頼関係を持たないまま突発的かつ一時的にお預かりするので、もし万一お迎えに来ないような事態を想定してのものです。そのほかに、入園承認、保育時間と利用料、園児賠償責任保険及び災害共済について、保育内容や保育記録、安全と健康管理等がおもな内容で、他の諸来ていとの関連も鑑みながらこの規程に基づいて実施しております。
 一時保育は、園児以外の一般家庭に対する子育て支援であり、日常的には家庭保育が常態である家庭に対する支援です。パート就労や求職活動、冠婚葬祭、通院、祖父母の看護、農繁期、が預けたい理由の大半です。平成11年度までは、認可保育所で月途中入所ができなかったので、入所待機のための期間の一時保育も多かったのです。これはお母さんの仕事が月途中からの勤務に決まったり、育児休業明け就労で職場復帰は殆どが月の途中なのですが、職場に出る日から月末までの期間、入所待機の一時保育として受け止めていました。いまから考えると、何日でもない日数を、入所が決まった保育園ではない所で過ごさなければならないのは、保育される子どもにとっては不本意なことだと思います。一時保育の園にやっと慣れた頃、「あなたの本当に入る保育園はここではなく、あっち」と言っているようなもので、また新しい環境に慣れるための精神的負担を強いることになり、お役所仕事と言われても仕方のない時期がありました。平成10年度からは保育園への月途中入所が認められるようになりましたので、入所待機のための一時保育はなくなりました。
 
[1] 受け入れの実際
 一時保育の受け止めは、殆どが電話による問い合わせから始まります。預けたい事情をお伺いし、一時保育の内容をていねいに説明して、利用することが決まれば、その2〜3日前にお子さんを連れて「母子手帳」を持ってきて頂きます。そして子どもの日常について、一時保育に必要な情報を端的にお伺いします。私達の事前情報はこの面接のほんの30分程度ですが、お母さんの雰囲気、子どもさんの発達の程度、どのクラスでどういう体制で保育するかまで、ある程度把握し予想を立てて受け入れ準備をしておきます。勿論、突発的な事情の時は全てが後回しになりますが、必要な書類だけは後日でも書いて頂くことにしています。それから延長保育と同じ自主事業なので、保護者と「特別保育に関する利用契約書」をとり交わし、必要な2、3の書類(申込書や家庭環境等)に書き込んで頂いて入所の手続きとしています。
 
[2] パンフレットについて
 一時保育の広報の一環として、パンフレットを作成しました。一時保育を利用したいお母さんの立場になって、どんな情報がほしいか内容について話し合いを持ちました。また、保育園の雰囲気を伝えるために園舎や子ども達の笑顔のスナップ写真も入れ、場所を知らせる地図も加えました。できあがったパンフレットは福祉事務所の窓口と保育園に置き、園のホームページにも新しいパンフレットができたことを載せてあります。
〈パンフレットの内容〉
ア 一時保育について
 ご家庭で保育されているお子さんを対象に、ご家族の緊急の事情もしくは保護者の不定期の就労等で、家庭保育が困難になった時、第二若葉保育園では一時保育を実施しております。
イ こんな時
 お母さんのご都合(予定された日と日数)
[1] 結婚式の司会やピアノ演奏
[2] 週3日程度のパート就労
[3] お母さんの出産前後や定期的な通院
[4] 農繁期
 ご家族の都合(緊急かつ突発的な事態の発生)
[1] ご家族の方が病気や事故で入院し、子どもの世話ができなくなった。
[2] 冠婚葬祭やそのお手伝い
*1か月のご利用日数は、12日が限度です。
ウ 利用料について(一日単位の料金です)
  3歳未満児 2,500円
  3歳児 1,600円
  4歳以上児 1,500円
*この中には食事代や寝具利用料も含まれております(この料金は花巻市内の保育園統一の料金です)。
エ お支払いの方法
 支払いは、その月の利用の最終日もしくは月末に保育園の窓口でお支払いください。
オ その他
*一度申込書を提出して頂くとその年度に限り、電話で預けたい日を連絡頂ければ、再度手続きをしなくても、利用することができます。
*ごく稀にですが、同じ日のご利用希望者が多くて、安全保育に支障をきたすことが予想される場合、一時保育をお断りする時もあります。
*体調が悪かったり、感染性の病気の時はお預かりできません。
 
[3] 保育内容
 保育は、基本的には同年齢のクラスでお預かりし、活動に参加できる様子でしたら、一緒に保育園のデイリープログラムに添った生活となりますが、泣いて情緒が安定しない時は、一時保育担当の保育士が側について不安な気持ちを十分に受け止めてあげるようにしています。保護者もきっと不安な思いでいるだろうから、一日どんな様子で過ごしたか、一時保育専用のお便り帳に機嫌、遊びの様子、食事の内容や食べた量を記入してあげて、保育園での様子が想像できるように工夫しています。そして、これは一時保育のパンフレットにも書いてありますが、「一時保育はあくまでもご家族の都合により、やむを得ず預けなければならない事態の発生に伴って行う保育です。お子様にとって心の準備もなく、知らない場所で知らない人と過ごすわけですから、精神的な動揺が大きいと思われます。保育園ではベテランの保育士が個別に手厚く対応できる体制を整えておりますが、お迎えにいらした時は十分に抱っこしてあげ、不安だった一日をケアしてあげてください」ということを忘れずに伝えるようにしています。預けられる子ども達は、お母さんが立ち去ると当然激しく泣きます。これは親子の絆がしっかり結ばれているからこそであり、子どもの立場になったらどんなに心細いか、痛いほど気持ちがわかります。どんなに優秀でベテランの保育士でも、これを瞬時ににこにこ顔にはできません。側について不安な気持ちを受け止め、「大丈夫だよ、お母さんお仕事終わったら急いで来るからね、遊んで待っていよう」を繰り返し言い聞かせながら、極力楽しそうな遊びに目を向けさせる努力をします。はじめのうち泣かない子も、お昼を食べる頃になると悲しくなる子もいます。一定期間続けて来る子は慣れて、園児と同じに保育園生活を楽しめるようになりますが、1歳前後で期間を空けて不定期に来る子は可哀想だなと思います。保育園での楽しさを実感しないままで帰り、また期間が経つので、新入園児の状態の繰り返しだからです。だからこういう場合の一時預かりは本当に親のためでしかない、という空しさを感じ、その中で過ごす子ども達ができるだけ安定できるように努力するしかないのです。
 稀に、お母さんが立ち去っても一日機嫌良く過ごせる子もいて、逆に親子関係に不安なものを感じる時もあります。
 
[4] 家庭連絡
 家庭への保育の状況の連絡は、乳児用と1歳以上児用の2種類の「一時保育家庭連絡カード」によって行われます。これは保育日誌も兼ねるので複写とし、ミシン目を切り離して、降園の時に保護者にお渡しすることにしています。内容は、1歳以上児は主に食事の内容とそれぞれ食べた量、今日の様子をできるだけ詳しく書いてあげることにしています。乳児も複写式でミルクや離乳食の量が書き込める様式で、これも一日の様子を記述で書いてあげます。保護者が不安になる部分は柔らかく、良い状態を生き生きと書くようにしております。
 
[5] 利用者に対するアンケート調査
 12年度の後半に、11年度に一時保育を利用した方で利用頻度の多かった50人の家庭を選び、一時保育に対する感想や意識を知るためのアンケート調査を実施しました。この中で注目したのは、預ける時の保育環境が「両親が働いて祖父母が保育していた」が50%もあり、岩手という地域性からくるものであると思われました。しかし同居しているかというと、そうではなく殆どがお母さんの実家に預けており、祖父母の都合、すなわちおじいちゃんおばあちゃんが旅行に行くとか農繁期、冠婚葬祭、通院でした。残りの50%の「母が保育していた」の場合は、通院、兄弟の行事、検診、次いでパート就労がおもな理由でした。このことから「育児は家庭で」という基本姿勢はしっかり持ちながらも、はじめはどうにもならない理由でやむなく預けていたのだが、思いの他、子どもも楽しめて、自分も「ほっ」とできる時間が持てるので、継続して頂けるようになったものと思われます。ですから一時保育が始まった当初の「一日中泣いて過ごす子」も慣れるにつれて少なくなり、久々の登園を楽しみにしている子も多くなってきました。また利用後のお母さんの感想は「預けてよかった、安心した、助かった」が合わせて60%あり、次に困った時にも利用しようとする気持ちに繋がっているものと思われます。それが「今後の利用について」に如実に現れており、「子どもが泣くので、本当に困った時しか預けない」は全体の3.6%、「助かったのでまた預けたい」が50%、預ける必要がなくなった(幼稚園就園、その他)が46.4%という結果になりました。
 以上のことからも、就学前の目の離せない時期に、安心して預けることのできる保育園が身近にあるということが、いかにお母さん達の心の支えになるか、アンケートの他の質問項目に対する答えからも伝わってきます。「もし何かあったら預けたいので、内容を教えてください」という問い合わせもあります。
 また、一時保育に対する要望は、自由記述の欄に個人的な本音も現れてきており、それは現時点での保育園での精一杯の対応を上回るものであり、戸惑いを感じながら今後の対応を基本的な部分から見直していくことも必要だと思いました。以下は自由記述の中の一時保育に対する要望です。
*日曜日も預かってほしい。
*兄弟で預ける時の割引があればよい。
*預けたい日に預かってほしい、「今日はいっぱいなので」と断わられたことがあった。
*1か月あたり20日位預かってほしい。
*保育の様子をもっと詳しく教えてほしい。
*時々しか行かないのでしかたないが、先生の名前が分からなかった。
*病気の時も預かってほしい。
*給食のレシピを教えてほしい。
*預ける理由を聞かれると、何か非難されているように感じた。
*私達も疲れるので、一日育児から離れたいと思うこともある。
 時代とともに、子育て観が変遷し、今は親だけが子育ての責任者ではないことを親自身も主張できるようになり、社会制度もその方向に向かっています。育児中の親の大変さをカバーし支援して、少子社会に歯止めをかけなければならない時なのですが、子どもの育ちの心を大切にした育児の基本を見失わないようにしたいと思います。








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