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(2)延長保育
延長保育の体制
 延長保育は、保育を希望する園児が10名前後おります。年齢も乳児の後半から就学前までいて、殆どの子が6時30分を越え、7時ぎりぎりまでの保育が必要な保護者の勤務環境で、家族もお迎えに来られない状況の子ども達です。職種は教師、遠隔地勤務の方、わがまま言うとやめさせられそうな事業所(地方にはまだこういう所もあります)。自主事業になってからは、保護者と延長保育に関する取り決めをお互いに承認し合い、利用契約書をとり交わすところから始まります。職員体制は、勤務割表により10時から午後7時までの勤務職員を2名、内訳は乳児から2歳未満児クラスの先生1名と年中年長クラスの先生が1名いて、それぞれのグループで交替で延長保育担当となります。5時30分になったら延長保育クラスを2つ作り、所定の保育室に移動して補食や保育の準備に入ります。いつも子ども達の顔見知りの先生が交替で延長保育を担当することになるので、保育の切り替えも違和感なくスムーズにできるのです。
 
保育の引き継ぎ
 引き継ぎ事項は、担任から延長保育担当の保育士へ、大まかな一日の様子と延長保育中に留意しなければいけないこと、個別に連絡しなければならないことの申し送りがあります。これは延長保育日誌の「引き継ぎ事項」の欄に克明に記録されます。
 
延長補食
 引き継ぎが終わると同時に延長保育室に移動します。通常保育のお迎えの最終が6時ですので、まだ大勢の子達が残っている間に保育の切り替えを行い、延長補食を食べさせます。内容や量は、7時以降に食べる家庭での夕食に差し障りのないものや量とし、献立表の中に予め延長補食として組み込まれています。問題は食べさせる量です。ちょうど、お腹のすく時間帯でもあるので、もっとお代わりが欲しいのを適当な所で切りあげさせるのは、とても難しいことです。内容は小さいおむすびだったり、サンドイッチ、蒸しパン、バナナや焼きいも、季節の果物、夏場はヨーグルトに果物を添えたものや果物のゼリー等です。土曜日の補食は既製品となり、おせんべいやクッキー、果物、自然食品のメーカーの牛乳ケーキ等となっています。
 
延長保育
 食べたあとはそれぞれ自由遊びの形態で、日中の遊びの続きをする子、誘いあってママごとやお店やさんごっこをする子、季節によって「こたつ遊び」「風呂敷遊び」はなかなかオリジナリティがあって、発展の方向も様々なので見ていて楽しい遊びです。特に風呂敷遊びは好評で、女の子はお姫様に、男の子は忍者に、工夫しながら変身していくので、お母さんがお迎えに来た時は見事ないでたちで言葉使いまでお姫様になっているので、びっくりされますが、それが尾を引き来る日も来る日も飽きるまでお気に入りのお姫様だったりする時期があります。他にはレストランごっこも人気の遊びで、作る人、注文を聞くウェイトレス役、お客さんで食べる役、役割分担はいつも同じ人が同じ役割っていうのが面白いと思います。男の子達はミニカーやブロック遊びが好きで、日中に作れない大作をたくさんのブロックを使って熱心に作り、「お母さんに見せてあげる」と一生懸命です。そしてお迎えが来ると説明が始まります。
 
予定外の延長保育児
 突発的に残業が入ったり、冬の雪道で渋滞に巻き込まれ、お迎えがどうしても6時を過ぎる時は、必ずお電話を頂くように保護者に徹底して頂いています。
 お迎えが遅いことをとやかく言うのではなく、お迎えを待つ子ども達に不安感を持たせないためです。連絡を頂くとすぐその日の延長保育の先生に伝え、皆と一緒に延長補食を食べさせながら、お迎えが遅れる理由をしっかり話してあげます。「お母さんお仕事忙しくなったからお迎え少し遅くなるんだって、お母さんも頑張っているから○○ちゃんも皆と遊んで待ってようね」「うん」、こういうことが日常的に2〜3人程度はいるので、延長補食は多めに準備しておき、保育士にも食べるように話しています。職員もお腹の空く時間帯です。雪道の事故で交通渋滞に巻き込まれ、携帯で連絡をくれたお母さんに「慌てなくていいから、気をつけて来てくださいね」と何気なく話したら予想外に感激されたことがあって、こちらも驚きました。
 
延長保育の記録
 延長保育の記録は、延長保育日誌に記録されます。引き継ぎ事項から、その日延長保育を受けた子達の出席簿、保育の内容、延長補食を食べた時間、内容、喫食状況、保育中の事故等の異常の有無、その対応、最終降園児名と最終降園時間、最終退庁職員名とその時間等がおもな内容です。時には、熱があってもお迎えに来られない場合で延長にまで至る場合もあり、状態にもよりますが、安静にしながら時々検温したりして、保護者に状態を正確に伝えられるようにしています。
 
 延長保育にまつわる、いろいろなエピソードがあります。
[1] 研究者の来訪
 若葉で延長保育を始めて間もなくの頃、東京の某大学の心理学の先生2名が「延長保育が子ども達の心理に及ぼす影響……」か何かのテーマで、延長保育の現場を見学させて欲しいとの申し入れがあり、お受けしたことがありました。40歳前後かと思われるハンサムな2人の先生が、品の良いスーツにネクタイ姿で現れました。「保育の現場にお入りになるのであれば、上着をとられた方が……」とご注進し、延長保育室にご案内しました。40分後、このお二人がどんな風体になっていたか現場の先生達なら容易に想像がつかれると思いますが、延長保育の腕白達の格好の遊び相手にされ、メガネはずれて、端正に七三に分けられた頭はぼうぼう、趣味の良いネクタイはぐさぐさ、ワイシャツは少しズボンからはみ出して、それは正視するのが申し訳ないようなお姿でした。しかし先生方の表情が心なしか晴れ晴れと腕白坊主っぽく見えたのは私の職業意識から来るものだったでしょうか。延長保育児がさぞかし、しょんぼりと暗い保育時間を過ごしているとお思いだったようです。さてどんなレポートができたか読んでみたかったと思います。
 
[2] お迎えのお母さんを困らせる子
 これは、お迎えが延長保育の中でも日常的に最後の方の、3歳前後の子に見られる現象ですが、お友達があと2、3人というあたりで自分のお母さんが「ただいま」って来ると、とたんにお母さんを無視して、片付けていたおもちゃを保育室中に散らかしたり、「もっと遊んでる!帰りたくない!」を連発してお母さんを困らせます。また、どうでもよいこと、例えば「お父さんのお迎えがよかった!」、真冬なのに「オーバーを着たくない」などと言い張って、お帰りのご挨拶になかなか至らないのです。症状の種類はたくさんあります。これを「保育園に長くいたので、保育園の方がよくなったのね」と悲しむお母さんがいますが、さにあらず。「ぼくが寂しい思いをして待っていたのにお母さんは、いとも簡単に「ただいま」だけ、理路整然とした理屈は言えないけど、何故だか「お母さんを困らせたい!」だけのあまのじゃくなのです。こんな時は「お母さん一生懸命困ってあげて、ごめんごめんと言いながらぎゅっと抱っこして」が対抗手段です。しばらくすると、けろりとして帰るのです。怒ったり叱ったり、無理やり実力行使は逆効果、いよいよ手に負えない時は「それじゃ先生と保育園にお泊まりしようか?」が殺し文句です。ささやかな配慮ですが、延長保育担当の保育士は大きな声で「○○ちゃーんお迎えですよ!」と言わないことにしました。ひとり帰る度に寂しさが募り、「次は僕かな」と思っている時に、別の子の名前が呼ばれるのはきっと「つらいこと」なのではないかと思うからです。
 
[3] 延長保育の好きな子
 通常の保育時間の子が、たまたま親の残業で延長保育を経験し、日中とはまた違った楽しさと延長補食が魅力で、「お母さん、今日、僕、延長保育?」と期待を持って聞くのです。するとお母さんも「何だか延長保育が好きになって…」と急いで来ていた迎えがとたんにゆっくりとなったり、延長保育の弊害的な現象も起きてきました。これにはさすがにご注意申しあげました。
 
[4] 卒園児の思い出
 若葉保育園で開設30周年の式典を行うことになり、文集を作ろうということになりました。開設当初から延長保育をしていた訳ではないのですが、日常的にお迎えの遅い子がいて、情緒の安定には十分配慮して対応していたつもりでしたが、今は大人になったその子達に保育園での思い出を寄稿してもらったら、保育園は楽しかったが、お迎えの遅かった日の寂しさに触れ、その当時「大きくなってお母さんになったら、子どもを保育園に入れるけれど、お迎えが遅くなって子どもに寂しい思いを絶対にさせたくない」と頑なに思っていたという一篇があり、屈託のない表情で楽しそうに延長保育時間を過ごしているこの子達の心の底にもきっとそんな思いがあるのだ、ということに思いを致して保育をしなければと思っています。








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