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2 延長・一時保育を子ども達の園生活の一部として定着させるまでの取り組み
岩手県花巻市・第二若葉保育園
園長 中村 美喜子
(1)はじめに
 第二若葉保育園は、岩手県花巻市南川原町というところにあります。保育園の隣には花巻市の青少年ホームがあり、館長さんはじめ職員の皆様にも日常的に何かとお世話になったり、雨天の日の運動会は大きな体育館をお借りすることができ、とても助かっております。園舎の南には奥羽山脈から流れ出る豊沢川が清らかに流れ、広い河川敷きがあるので子ども達の格好の散歩コースです。北上川と合流する少し手前のあたり、大きな堤防を隔てて保育園があります。対岸には桜並木が延々と続き、お花見の季節には、地元の人達のグループがあちこちで賑やかに宴会を繰り広げる場所でもあります。広々とした芝生があるので、解放された子ども達は一斉に駆け出します。この豊沢川には東北本線の鉄橋が掛かっており、晴れた日の夕暮れ時、夕焼けと一番星の中、鉄橋を通る電車は銀河鉄道を彷彿とさせるロマンチックな雰囲気があります。子ども達はこの電車に向かって何度「さようなら」と手を振ったことか……。故郷の山や川、桜並木、銀河鉄道、四季折々の野花、きっといつまでも心に残る情景だと思います。
 第二若葉保育園は昭和48年の12月1日、産休明け乳児保育の需要の高まりを踏まえて、花巻市の要請により60名定員で開設されました。若葉保育園に次いで、乳児保育を中心とした3歳未満児の保育園は花巻市内で2番目でした。当時は、3歳を過ぎると他の保育園に移って頂くという時期もありましたが、現在は制度も変わり、どこの園でも乳児保育を実施し就学前までいられるということになりましたので、かつてのような独自性はなくなりました。しかし、やはり乳児の入所希望者が多く、通年制で定員のほぼ3分の1は乳児です。そして開設から20年目、平成6年度事業として園舎を全面改築することになりました。当初に建築された建物に施工上の問題があったためです。この時に地域の子育て支援のためのスペースが補助対象となり、定員数に比べて大分広くて多機能な園舎を作ることができました。
 
特別保育事業
 第二若葉保育園は、花巻の大きな老舗が連なる上町商店街の一本裏通りにあります。開設当初は、その店の経営者や従業員の子ども達がたくさん入所しておりました。そして通常の保育時間の中で、お店のおばあちゃんが従業員の子どもをお迎えに来て、お母さんの仕事が終わるまで見ていてくれたり、従業員同士がお互いの仕事をカバーしながら、一方が残業の時はもう一人がお迎えにきて一緒に連れ帰ってくれたりと、立場を越えて子育てを助け合うというほのぼのとしたものがありました。ですから延長保育の切実な要望もなく、のんびりとした誰にも無理のない日常保育が繰り広げられていました。やがて花巻市は、大型ショッピングセンターの進出により、町の人々の日常生活に伴う流れの方向が変わり、歴史の古い老舗といわれる各種の専門店が次々と閉鎖され、町並みはかつての賑やかさが一変してしまったのです。そして園児の家庭環境も商店関係者から、誘致企業の下請け工場に勤める方や中央資本の大型店に勤める方が増えて、保護者の職種にこれといった傾向がなくなってきました。それでもまだ三世代が同居する時代で、お母さんの仕事が遅くなる時はおばあちゃんがお迎えにくるという土地柄だったので、延長保育の希望者が大勢いたわけではなく、日々のことは何とか対応していたのです。しかし、いよいよ延長保育の必要性が生じてきたのは、昭和60年頃から核家族化が急激に増加しだした頃からでした。
 保育園で延長保育をしていなかった頃、保護者は時間をやり繰りばかりもしていられず、ついに近所の人に頼んでお迎えに来てもらう二重保育がちらほら見受けられるようになってきました。また、経済的にゆとりのない方は、「すみません。すみません」と言いながら駆けつけて来るようになりました。車での登降園でもあり、万一事故でも起きてはとこちらもハラハラしましたし、職員体制的にも、日常的に遅くなる保護者に優しくばかりもしていられず、お迎えの時間のことで保護者と職員の信頼関係にひびが入るのはとても良くないことだと思いました。それから、二重保育先での子どもの処遇が望ましくない事例も聞こえてきて、これは保育園で延長保育の体制を整えた方が、子ども達にも無理がなく保護者も安心できるだろうということで、昭和62年の4月から制度に則った延長保育が始まりました。
 一時保育は、園舎の改築に伴い、地域社会に貢献できる特別保育事業のためのスペースを補助対象として上乗せして預けました。それまでは若葉保育園の狭い保育室で苦労して行っていましたので、それを第二に移すという形で、きちんと一時保育のための保育スペースも見込んだ広さを備えた園舎の設計となりました。現実に若葉の子育て支援センターでも、家庭で保育しているお母さん達のために一時預かりの必要性は、育児相談や園庭開放の中の話題にもなっており、子育て家庭の支援としてなくてはならない事業であることは職員も十分理解できました。そして、平成7年の4月から、新園舎の落成とともに第二若葉保育園での一時保育事業が始まったのです。
 当初は、国の示す実施要綱に従って行っておりましたが、全国の保育園が、子育て支援に向けて努力をし始めており、若葉保育園で行っていた子育て支援センター事業をとおして、子どもから離して心身を休ませてあげたいお母さんがいる…、当時双子の赤ちゃんを抱えたお母さんの育児ノイローゼ気味の様子を見かねて、若葉の支援担当者から「子ども達を一日預かってあげて、お母さんをぐっすり眠らせてあげたい」という申し出もあり、日常的な冠婚葬祭、通院、入院だけではない、別の理由の一時預かりの必要性も感じました。
 また、当初はまだ自主事業ではなかったので、様々な規制がありました。花巻市内に住所のない子は預かれない。東京から里帰り出産のため第一子を抱えて帰省しても、おばあちゃんが働いていると上の子の世話をして貰えない。出産の直後くらいはおばあちゃんも休んでお世話してくれるけど、いよいよ辛くなってきた身体を抱えて、まだまだ手のかかる子を一時預かりにお願いしたいという電話を同情しながら断わらざるをえなかった事例も少なからずありました。
 また、障害児の一時預かりについて、当時の担当係長さんと検討を重ねましたが、責任と安全の分野でどうしても対応できかねました。本当は障害児を持つお母さんこそ一時保育を必要としていることは十分に理解できたのですが。平成12年度からは自主事業となりましたので、他市町村、他県の住所の子も、障害を持つ子も十分に事前の聞き取りを行ってお預かりしております。
 延長保育と一時保育、地域社会にとって必要な事業であることを時代を追って具体的なケースを体験し、「保育園がなすべきこと」と認識し、職員と一緒に前向きの取り組みを始めました。








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