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(1)延長保育
延長保育は地域のニーズから
 当地区が住宅地になる20年ほど前は農家も多く、忙しい時期には近所も家族総出の仕事になります。今のようにベビーシッターのようなものもなく、結局保育園に頼らなければならない家庭もあったようです。そのころの保育時間は、原則として午前8時から午後5時までとなっていましたが、実質開所していたのは午前7時30分から午後6時30分になっていました。ところが、その午前7時30分から午後6時30分の開園時間を越えて子どもを預かることもしばしばあったようです。そのような時などは殆ど園長や保母のボランティアで対応し、延長保育という名前や制度はなかったものの、地域の家庭の事情に合わせ開園時間を工夫してきた経緯があります。
 基本的な保育時間は決まっているものの、このように当園の延長保育は、地域の事情から必然的に行われると同時に保育時間も設定されてきたように思います。延長保育をいつからやっていたかと聞かれれば、開園当初から37年間ずっとやってきたことになります。
 今ではこの地区には農家が殆どなくなり、企業や商店に勤める母親が増えてきたことで、季節によって極端に必要な保育時間が違うということはなくなりましたが、女性の勤務時間が年間を通し平均化し多様化したこと、また勤務地域の範囲が以前に比べ広範囲に及ぶことから、通勤時間等も考慮すると延長保育の必要性が以前に増して益々大きくなってきているように思います。
 次に、現在行っている延長保育の実施状況について述べてみたいと思います。
 
延長保育の実施状況
 現在の保育時間は、午前7時から午後7時までの12時間に設定しています。利用者の希望で保育時間を少しずつ伸ばし、5年前から現在の時間帯での延長保育に取り組んでいます。現在の延長保育時間は18時〜19時まで、延長保育の利用者数は、年間を通して利用を希望する児童が4月の時点では16名程ですが、5月6月と徐々に増え、また当日突然利用する児童もいるので、現在では一日平均利用数は20名前後になります。18時〜18時30分までは3人の保育士が対応しますが、18時30分を過ぎると利用者数が5〜6人と少なくなりますので、2名の保育士が担当します。担当保育士は、延長保育専門の短時間保育士を採用するのではなく常勤保育士として採用し、全保育士がローテーションを組んで保育に当たります。
 通常は月曜日から木曜日までの4日が午後4時まで年齢別保育で、金曜日と土曜日が異年齢保育の形態になり、午後4時以降は、毎日3〜5歳児と1〜2歳児それぞれの異年齢クラスと0歳児クラスに別れ、保育が行われます。人数が少なくなる6時30分以降は、延長保育の子どもたち全員を一緒に保育します。
 延長保育を利用する保護者の事情は、殆どが母親の勤務時間を考慮したものが多く、看護婦や教師はもちろんですが、他にも商店の開業時間が長くなったことで思うように早く帰ることができない。セールスや保険の外交などで市内を離れ郡部へ出かけたときなど、相手の都合でなかなか早く帰れず時間に間に合わない。隣の市に転勤になり電車で八戸市から通っているが、仕事の都合で少し時間がずれただけで予定の電車に乗れず遅れてしまう。両親がいてもお互いの協力体制がうまく取れる環境がなく、祖父母などにも頼みにくい状態にある。また単親家族で頼る人もなく、ベビーシッター等を頼める経済的余裕がないなど、仕事を続けていくための母親の大変さがうかがえます。またこれらの切実な事情のほかに、仕事を終えて子どもを迎えに来る前に用事を足したいとか、買い物の時間を取りたい、仕事と家庭との切り替えの時間がほしいなどの理由で、延長保育を利用する保護者もいます。
 延長保育の子どもたちの反応は、通常の保育の延長という感覚のようです。特別嫌がって泣くということもなく、逆に一日の保育の流れの中で環境や担当保育士、保育形態の変化を楽しんでいるようです。ただ年齢の低い子どもは体力の問題もあるので、畳の部屋やソファー、ベッドなどで担当保育士と静かに過ごす時間を長く取れるようにしています。
 通常保育からの切り替えは、いったん全員で集まり「帰りの集会」をし、その後異年齢のクラスに別れますが、外遊びも含め自由な遊びの時間となります。なかには通常保育で疲れ、部屋でゆっくり休む子もいます。
 延長補食については、小腹がすく午後5時ごろ夕食にひびかない程度の小さなおにぎりやサンドイッチなどを、家庭から準備してきてもらったものを一緒に食べるようにしています。それぞれ違うものですが、子どもたちはこの時間をとても楽しみしています。自分のために作ってくれた親の愛情を、長時間離れている中で実感する瞬間なのでしょう。ですから他の子どもの物を欲しがることもありませんし、互いに違っていて当然と理解しているようです。あえて保育園で同じ食事を準備しないのは、このような子どもの様子に配慮したものです。と同時に、保護者の何もかも保育園にお任せ意識にならないよう、保育園に預けていても一緒に子育てをしているという意識を持ってもらう一つの機会になっていると思うからです。これらのおにぎりなどは、名前のついて容器に入れて持ってきてもらい、朝のうちに園で集め給食室で時間まで保管します。
 
利用者の反応
 安心して遅くまで預かってもらえる場所があることは仕事をする上でとても助かる、という言葉を利用者から聞くことができます。基本的に、延長保育を希望する親は、仕事の都合がつけばできる限り早く迎えに来るよう心がけているようです。ただ、中には子どもを遅くまで安全に預かってもらえるという安心感からか、必要のないときにもぎりぎりまで子どもを預ける保護者も出てくることもあります。そんなときは、子どもの代弁者として保護者に声をかけるようにしています。
 延長保育を担当する保育士が一番気を使うことは、長時間の保育の中での子どもの体調の変化です。人数が少なくなり通常の保育時間帯よりはゆったりした環境や保育に心がけていても、やはり家庭とは違い基本的に集団保育ですので、夕方になると心身とも疲れも出てきます。それを最小限にしてやることに一番気を使います。あとは職員の当番配置の問題です。指定休を取りながら平均に当番を担当するように、ローテーションを組むのに苦労します。延長保育をすることに対し、保育士からの不安や不満といったものはありませんでしたが、先にも少し触れましたが、延長保育の利用の仕方があまりにも保護者本位である場合は、子どものことが心配になるというところです。
 
降園時の子どもの様子
 遅い時間になればなるほど注意散漫になり、自分の持ち物を忘れたり、行動が少し鈍くなるようなところが見受けられます。親が迎えに来たときは嬉しそうに玄関へ走って行く子がほとんどですが、中には毎日玄関ですねて親の愛情を確かめようとしている子もいます。また、たまに延長保育を希望する子どもの中には、親の顔を見たとたんに泣き出す子もいます。ただ、このようなことも年度の最初のうちだけで、後半は親も子どもも心身ともに延長保育の状況に慣れ、降園時の様子は通常保育と同じ様子を見せるようになります。しかし長時間の保育の中で疲れていることは確かなので、その点を配慮する必要があります。
 
子どもへの配慮
 子どもたちは自分の親や保育士のことを気づかい、迎えの時間が来るまでは、子どもなりに心配をかけまいと元気にしていますが、いくら気心が知れているとはいえ、保育士は結局他人で、親ではないのです。長時間他人といることの緊張がまったくないとは言い切れません。そこのところを保育士が冷静に汲み取ってやることです。ともすると、保育士に親の代わりができると思い込んでしまうときがあります。延長保育の子どもは、時間が来て一人また一人と帰っていく様子を見て、少なからず寂しさや不安を抱きます。またどんなにやさしく抱きしめてもらっても緊張を増す子もいます。保育士が親のように愛情を持って関わることは必要ですが、親ではないことも忘れないようにしないと、保育士の独りよがりの保育になる危険性があるので十分注意する必要があります。
 
その他
 延長保育は、あくまでも親の都合が優先した保育形態です。保育を必要とする状況がある以上はできる限りの対応はするでしょうが、それが必ずしも子どもにとってベストであるかというとそうとは限りません。親の働き方、子育て中の親の勤務体制などについて、企業や行政が今以上に真剣に取り組む必要があるのではないでしょうか。








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