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「つらかった夏休み」
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岡山県岡山市
福田道場
小学五年生
山下恭平
 
 今年も、道場のレギュラーを決めるリーグ戦が始まりました。毎年道場では、全国大会に挑戦するメンバーを総当り戦の結果で決めます。昨年僕は、メンバーに残ることができ副将として出場させていただきました。せんぱい方の大活躍により道連はコート優勝、剣連は優勝と言う夢のような結果を残すことができました。さらに九州の神武館でもみごと優勝することができ、今年は二連覇をめざしていました。
 「山下、今年は大将だ。」と館長から言われました。
 「えっ?」と僕は思いました。
 「五年生の僕に大将がつとまるだろうか。」と不安がよぎりました。しかし、言われた限りにげることはできません。稽古あるのみです。毎日の稽古に加え、いのこりによる基本練成の稽古。全国大会三週間前、朝6時からの稽古が始まります。僕はこの朝稽古が大好きです。朝早く、父にひきずられるように車におしこまれ、うす暗い中をいどうし、目の覚めないまま稽古を始めます。しかし、十分もしないうちに、僕の体はトップギアに入ります。マンツーマンで先生方の目がひかり、気をぬいた、だとつをすると、すかさずげきがとんできます。そういった厳しい稽古をかさね、メンバー五人は、中学生のせんぱい方と共に、順調にしあがっていきました。
 けして忘れることのできない七月十八日水曜日ちょうど全国大会一週間前のことです。僕は先生との地稽古で、おもいきってメンを打ちました。
 「メーン」「ドスン」となりで稽古をしていた人とぶつかってしまったのです。右足を見てみると指が曲がっていました。でも、あまり痛みは感じませんでした。すぐに父が病院に連れていってくれました。
 レントゲンを見た先生の口から、「骨折しています。」と言われると、急に目から涙があふれてとまらなくなりました。全治三週間と診断され試合はもう、ぜつぼうでした。二日後から夏休み、僕にとっては、地獄のような毎日でした。丸三週間ギブスで固定し、かかとをつけることも許されず、家の中をはいずり回っていました。テレビを見てもおもしろくありません。心の中にポッカリ穴があいたようで、時おり大声を出しましたが、気がおさまりません。剣道が出来ないことがこんなにつらいとは思いませんでした。何より一緒に稽古していたメンバーに申しわけない気持ちと、自分一人がとりのこされたような気がしてたまりませんでした。しかし、みんなは、
 「早くなおれよ」
 「いつから稽古ができる。」とやさしくはげましてくれました。あせる気持ちを、おさえ治療に専念しました。予定どうり三週間でギブスがとれ、それから一週間後には、稽古の許しが出ました。しかし、ふみこむと、かかとに激痛がはしり、稽古になりません。一日一日と、ほんの少しづつ体が動くようになりました。けがをしてほんとうにつらかったけど、える物もたくさんありました。道場の稽古をじっくり見ることができました。せんぱい方の速い足さばきや力強い打ち、高学年の気力にあふれたかかり稽古を見て、おもわず手に力が入りました。低学年の子達がとても強くなっているのにおどろきました。道場では中学生の横で、小学生も同じ稽古をしています。両方を見くらべと中学生との力の差にビックリしました。
 「気を入れた稽古をしなさい。ただやっているだけではだめだ。」と先生がいつもおっしゃっている意味がわかりました。それと、道場のみんなと稽古しているから強くなれるんだと思いました。
 僕を支えて下さった先生方や友達、家族のみんなに感謝し、これからも永遠に剣道を続けていきたいと思います。








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