日本財団 図書館


「剣道から学んだこと」
z0011_01.jpg
静岡県磐田市
尚道館
小学六年生
丹野哲兵
 
 「気をつけ」
 「礼」
 静まり返った道場に、当番の子の声だけがひびく。
 けいこが始まるぞ。今日の心がまえを館長から聞かれたら、面をまっすぐに打って、相手の面打ちに負けないようにがんばろうと、それだけが頭の中をかけめぐる。
 館長の質問は、何が来るかわからない。とてもきん張します。
 ぼくと剣道の出会いは、小学一年生の十月。初めて見る剣道におどろき、体がふるえました。きちんとしたあいさつ。そして、ものすごい気合い。「ぼくもこんなふうになれたら。」と、思いました。
 道場は、基本を一番重点にしています。足の運び方ひとつでもむずかしく、竹刀の持つ手も、すぐに左手が下がってしまい、何度も何度も館長先生から注意を受け、なみだが出て来たこともよくありました。そのたびに、館長先生は、つねに、「基本が大切だから。」と、言われ、足運びや切り返しをしっかりやらされます。ぼくは、なみだをうかべながらも、「館長先生は、ぼくのために言ってくれるんだ。ぼくのためなんだ。」と、思うと、何だかうれしくなり、がんばろうという気持ちになれました。また、館長先生だけでなく、指導の先生方、道場の仲間達、そして、お父さんやお母さん達にもはげまされて、今までがんばってこれたんだと思うと改めて「人は、一人では生きてはいけないものだ。ぼくも人のために役に立ちたい。」と、思うようになりました。
 館長先生が、よく話してくださいます。
 「人間、生まれて来たからには、人の役に立たなければダメだ。また、自分勝手ではいけない。相手のことも考えなければ、立っぱな人間にはなれない。」と、言われます。
 ぼくは考えました。「ぼくには何ができるのだろうか。」と。
 六年生となり、学校や地域の集団登校のリーダーとなりました。四月のうちは、新一年生が歩くのがおそく、集団からはなれてしまいます。ぼくはそのたびに、その子達をしっかり見守り、安全に学校まで行けるようにと気を配りました。そうしたら、その子のお母さんが、「哲兵君が見てくれるから、安心して学校に出せてうれしいよ。」と、喜んでいたと、お母さんが話してくれました。
 ぼくのお母さんも、ぼくがほめられて、とてもうれしい顔をしていました。ぼくもうれしくなりました。「そうだ、これが、いつも館長先生が言われる親孝行なんだ。」と、思いました。両親を悲しませたり、困らせたりするのは、親不孝です。ぼくは、お母さんの、あのうれし顔をもっと見たいと思います。
 また、館長先生は、
 「あいさつをしっかりしなさい。必ず、自分のためになるから。」とも、言われます。だからぼくは、大きな声であいさつするように心がけています。
 こんなことがありました。
 ぼくには妹がいます。妹の保育園にむかえに行った時は、必ず先生に、「ありがとうございました。」と、きちんと頭を下げてくるのです。頭の下げ方も、館長先生に教えてもらっているため、自信があります。園児のお母さん達が、そんなぼくの姿を見て、「剣道をやっていれば、きちんとしたあいさつができるのだね。」と言われ、一年生の子が二人、入門してくれました。ぼくを見て、入門してくれたことがとてもうれしく、はげみになりました。剣道は、ぼくにたくさんの事を教えてくれ、成長をさせてくれました。道場の他の人達も、剣道からたくさんの事を学んでほしいと思っています。
 剣道は、正しい人間をつくるものだと信じて、これからも努力していきます。








日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION