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優良賞 北海道地区代表
「耐えること」
北海道登別市・室蘭琢心館
増屋翔太(ますや しょうた)中学1年生
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 練習のある日、先生が小さな新聞の切り抜きを僕に渡され、読んで感想を述べるようにと言われました。その記事は「曙は一人きりではなかった」という見出しの記事でした。それには外国人として初めて横綱にまで昇りつめた曙の苦労話がのっていました。
 僕が剣道を始めたのは、小学2年のとき親にすすめられて琢心館に入館しました。そのころ同学年の人達は皆んな幼稚園、1年生から剣道を始めているので、すでに防具をつけて先輩の中に入って一緒にけい古をしていました。僕は早くあの人達のようになりたいと、あせりの気持ちで毎日基本だけの稽古にあきあきでした。
 そんな気持ちを察してか、先生が「翔太、いくらあせっても道場だけの練習では彼らには追いつけないぞ、家でも練習するんだ」と言われました。幸い父が高校時代から剣道をやっており、父のヒマな時に素振り打ち込みなどを見てもらうことにしました。そのかわり、悪いところはビシビシたたかれ、いつも面の中で涙を流しながら早くみんなに追いつきたいとがんばりました。そのかいがあって先に入っていた同学年の人達に何とかついて行けるようになりました。しかし、皆んなの中に入っての稽古は外で見ていたような楽しそうな状態ではなく、本当に厳しいものでした。琢心館の稽古は始まったら2時間近く息のつくひまもなく、休みのない打ち込み、相掛かり、互格稽古と先輩をまじえた回り稽古で終わった時はヘトヘトになる毎日でした。先生がいつも言うことは、他の道場は1週間に3回以上、毎日稽古をしている道場もある。それらの道場と対等のレベルに上げるためには、稽古内容の密度をあげ1週間分のけいこを2日間で消化することだと言われます。楽しそうに見えた皆んなの稽古は僕にとっては本当に大変なものでした。
 中には稽古中にわざと面ひもをゆるくし結びなおすふりをしては、サボル人もいました。僕もそうしてサボリたいという気持ちになりました。そんな時「曙は一人きりではなかった。皆んながあって自分があった」とライバルとして自分を成長させてくれた若貴兄弟、日本語や相撲の基本をたたき込んでくれた兄弟子ら多くの人達への感謝の気持ちをのべていました。そうだ、僕が入った時は一人だったけれど、今はいっしょに稽古をしてくれるたくさんの仲間がいる。そして皆んな苦しい稽古にたえて少しでも強くなろうとがんばっているんだ。僕一人だけが苦しんではないと、なまけ心を思いなおしてがんばりました。
 その効果があってか、地域の青少年剣道大会の学年別選手権で6年の部で優勝、中学1年の今年は、8人の決勝リーグ戦で6勝1敗で優勝することができました。しかし、今は小学生の時と違い、部活、塾通い、中間−期末テストと毎日が厳しい生活の中での剣道の練習はとても負たんに感じるようになりました。だけど1年生の僕なんて高校受験を目の前に控えて、休まないで練習に出てくる3年生の先輩に比べれば、まだまだ余裕がある。その余裕を無駄にしないで、どんな厳しさからも逃げないで剣道も勉強にもいまのうち、たくさんの貯金をためるよう努力するかくごです。
 曙の記事によれば、230kgの体重を支える両ひざの軟骨はすっかり減ってしまい、足を動かす度にその痛みは凄まじいものだったといいます。その痛みを必死に耐え3年振りに優勝したのです。
 曙の好きな字は「忍」の一字だそうです。そしてその記事の最後には現代の日本人が忘れかけている「忍耐」と「感謝」を米国出身の曙が教えているようだと報じてありました。曙の苦労、がんばりを思う時、僕なんかまだまだ余裕があると思う。あらためて練習への意欲がでてきました。
 僕はこの記事を読んで、苦しさ、厳しさに耐える「忍耐」、受験でいそがしい中、後輩の指導に休まないで、出てくれる先輩への「感謝」の気持ち、これらの言葉はこれからの生活をしていく上で本当に大切な事だと思います。琢心館の館員の誓いに「厳しさに耐える事を覚えます」という誓いがあります。この誓いを守り、皆んなに支えられながら、3連覇を目指し中学2年の選手権に優勝するようがんばります。








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