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優秀賞 東北地区代表
「自分を信じて」
福島県会津若松市・あおい剣士会
鵜川みほ(うかわ・みほ)小学5年生
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 「自信がありますか」
 と聞かれたら、みなさんはどう答えますか。私は、この「自信」を見つけるために、あおい剣士会で1年間がんばってきました。
 2年生のころ、私はおとなしいということで、ある男子から、けられたり、たたかれたりしていました。泣きながら家に帰ると、「みほ、やられたらやり返すくらい強くなれ、自信を持って!」と、ばあちゃんになぐさめられました。でも、男子の前に出ると、とてもやり返すことなどできません。私の心に「みほ、自信を持って!」というばあちゃんの声がひびきます。
 「強くなりたい」
 「自信を持ちたい」
 でも、なみだをこらえるのが精一ぱいだったのです。
 それは、4年生になったある日のことでした。学校から一枚のチラシが配られました。「強くなりたい子、集まれ!」と書かれた太い文字に、私は「ハッ」としました。剣道なんて見たことも聞いたこともありません。しかし、私の心はすぐに決まりました。
 「ここでがんばったら強くなって、自信が持てるかもしれない」
 入会してしばらくは、すぶりやすり足の練習ですが、友達もでき楽しくなりました。「はやく防具をつけたい!」と思い、一生けんめい練習しました。先生方は、そんな私にいつも熱心に教えて下さいました。ところが、面をつけてからの練習がきびしくなり、そのきびしさから逃げだしたくなりました。
 「行きたくないっ」
 と母に言うと、
 「みほ、剣道をはじめてみようと思ったときのこと忘れたの。自信を持てるようになったの」
 母のそのひと言に、私はドキッとしました。「強くなりたい、自信を持ちたい」と思いはじめた剣道ではないか。「どうせだめなんだ」というあきらめと母の言葉が、私の心の中でぶつかり合っていました。
 ある日、剣士会の「親子剣道大会」で母と試合をしました。母は防具が重そうで、少しかっこ悪かったです。ところが、そんな母が「お母さんも、みほといっしょに剣道やってみようかな」と言いだしたのです。父も私もびっくりでした。
 「ほんと、ほんと!」うれしいような少しはずかしいような気持ちでした。
 私は休まずけい古に行くようになりました。私よりも先に準備をして、はりきっている母を見ていると休めません。練習中に、「鵜川さんっ、そこはちがう」と先生に大きな声でしかられても、「はいっ」と返事をしてくじけず練習を続ける母。家にいる母とここにいる母は、本当に同じ人なのだろうか。私は、不思議な気持ちになりました。となりで切り返しをしている母の竹刀の音が、
 「みほっ負けないで!」
 「強くなるんだ」
 「自信を持つんだ」
 と、言っているように聞こえました。
 母が初段を受ける日、私はドキドキしていました。前の日の夜、母が「ねむれない。ねむれない」と言っていたからです。でも、会場で立合や日本剣道形をやっている母は、誰よりも堂々としているように見えました。
 「私のお母さんはすごいんだ!」
 いま、「自信がありますか」と質問されたら、私はこう答えます。
 「すぐにはできないけれど、自信につながる大切な石をひろい集めています」と。
 つらいことから逃げず、続けていく中から生まれてくる「強い心」を、剣道を通してつくります。そして、いつかきっと、母のように、堂々と初段を受ける日がくるようにがんばります。








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