日本財団 図書館


第2章 「ケアする人のケア」プログラム「内なる宇宙の物語を紡ぐ」 概要と調査

 「ケアする人のケア」のプログラムの開発に向けて、東京・名古屋・西宮の3ヵ所で、「内なる宇宙の物語を紡ぐ」というタイトルで、一連のワークショップを行った。これらに共通するテーマは、「自分の言葉で自分の物語を紡ぐ」ということである。

1) 「対話のレッスン」

 名古屋において、2回にわたって、劇作家の平田オリザさんを迎えてワークショップを行った。平田さんは、「対話劇」という新しいタイプの演劇に取り組んでいる劇作家である。
 演者とはいっても、個人が体験できることは限界があり、演者が体験したことのない文脈が出てきたときに、どうしても不自然な演技になってしまう。対話劇の特徴は、その不自然な演技を自然なものにするために、演者だけを変えようとするのではなく、周囲の条件、小道具を使ったり会話のきっかけを作ることで変えていこうとするものである。
 このワークショップに際して、平田さんは、次のように語っている。
 
 自分と相手とが決定的に異なっているということを、まず認める必要がある。そして、自分の価値観と相手の価値観を擦りあわせることによって、第三の価値観とでもいうべきものを作り上げる必要があるのではないか。(講演録より)
 
 そもそも、日本は海に囲まれた島国で、他国との侵略関係が長い間なかったことから、私たち日本人は対話が苦手だと言われている。また、戦後は、先進諸国に追いつくためにあまりにも急いで近代化をすすめてきた。そのなかで省いてきたのが、他者との対話によって、新しい価値を見出すという方法なのである。
 私たちは、「ケアの文化の構築」をめざしているが、新しい文化の創造にとっても、「対話」は重要な方法であり、姿勢である。介護をめぐる問題解決にとっても、「対話」は、ケアする人にとって大切な「人間関係」を育みながら、解決方法を見出すためのヒントになると考えられる。








日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION